ストレンジ・デイズ
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校舎内に入ることとはもちろんできないので、一番近い体育館横の外のトイレを使うことにした。それでも花火をしていた駐車場からはかなり距離がある。
外灯はあるものの人の気配はなく、まるで肝試しでもしているようだった。
「ていうか、移動中に監視カメラに俺達の姿映ってるよな、ぜったい」
「大丈夫、四六時中監視ついてるわけじゃないし、毎日チェックしてるわけでもないから」
「それって監視カメラの意味あるのか…」
「何か問題が起こった時の証拠にはなるでしょ」
「ああ、そういうこと…」
ようやくトイレが見えると俺の腕を握る唄子の力が強くなる。俺は密着していた奴の体を押し退けた。
「唄子、あんま引っ付くなよ。キモい」
「だって夜の学校って不気味で…トイレとか怖くて入れないんだけど」
「じゃーお前は外で待ってろ」
外に唄子を残し、誰にみられるでもないがいつもの習慣で律儀に女性用トイレに入る。さすがに暗すぎて何も見えないので、ためらいなく電気をつけた。
俺も昔こそ幽霊や怪奇現象を怖がっていたが、今はそんな事でビクついたりはしない。霊などいないし、仮にいたとしても自分には見えないのだから関係ないことだ。
用を足した俺はこれまだ律儀に手を洗ってからトイレを出る。ハンカチなんか持っていないのでシャツの裾で手を拭いていた。
「唄子、お待たせ…って、あれ…」
出口で待っていたはずの唄子の姿がない。名前を呼んでも無反応だ。まるで誰もいなかったかのように静まり返っている。
「おいおい、怖がりがこんな冗談やめろよ」
暗闇にかなりビビっていたはずなのに、俺を驚かせようとはいい度胸だ。くだらない遊びに付き合っている暇はないと、俺は歩き回って唄子を見つけようとした。
「動くな、大人しくしろ」
突然背後から腕を掴まれ、聞いたことのない声で命令される。俺は慌てて振り返ろうとしたが、相手が多数だと気づき動きを止めた。
「友達が大事なら、俺達に従えよ」
「…お前ら、誰だ」
友達というのは間違いなく唄子の事だろう。あいつもこいつらに捕まったのか。
俺の身体を押さえているのは二人、首だけ動かして姿を確認すると、彼ら以外には誰もいなかったが、他にも仲間がいると考えた方がいい。
「誰でもいいだろ。お前、小宮今日子だな。俺達と一緒に来てもらう」
「黙ってついてくれば友達には何もしねぇよ」
友達には、という言葉が引っ掛かったが唄子がどうなってるかわからない以上、頷くしかなかった。もし自分だけなら抵抗したかもしれないが、彼らは見るからにデフだ。下手に動いても怪我するだけだろう。
「こっちだ。歩け」
後ろから押されて渋々歩き始める。暗がりでよく顔は見えないが、見覚えのない二人だ。こんなところで唄子共々拘束されるような恨みを買った覚えはない。
「……まさか」
以前遊貴先輩に忠告されたことを思い出す。荒木や善と仲の良い俺の事をよく思っていないデフがよからぬことをしてくるかもしれない。もしかしてこの連中がそうなのだろうか。
先輩に注意するように言われていたにも関わらず、こんなことになるなんて情けない。奴らが俺に何をしてくるかわからないので、歩きながらも逃げ道を必死に探していた。
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