ストレンジ・デイズ □ 「いま、何時…?」 時間を聞かれたので答えてやったら、ソイツは大きな目をさらに大きくした。 「嘘!? もう朝!?」 立ち上がった時にソイツが痛そうに顔をしかめたのを、俺は見逃さなかった。どうやらただの睡眠中じゃなかったらしい。 「誰かにやられたのか?」 俺がそう訊くと、ソイツは一瞬驚いた顔をして、すぐ作られたような笑顔になった。 「ち、違うよ。大丈夫」 「…そうか。ならいいけど」 明らかに嘘だろうが、本人がそう言うなら別にそれでいい。 「あの小宮…さん?」 「なんだよ」 「もしかして、小宮さんって…」 いいよどむその少年に、俺は寒気がした。まさか、男だとバレたか?! 「小宮さんって、外部生?」 「は? …あ、いや………そうだ」 良かった全然バレてない。俺は心の中で安堵のため息をついた。 「そ、そうだよね、だって女の子だもんね。外部生に決まってるか…」 何だかボソボソとしゃべる奴だ。男ならもっとはっきりしゃべれよ。 「僕も外部生なんだ。よろしく、小宮さん」 にこっと笑ったその顔に不覚にもときめいてしまった。だってこいつどっからどう見ても女だぞ!? 「小宮さんは…何でここにいたの?」 そのセリフをそっくりそのまま返してやりたかったが、面倒ごとに巻き込まれるのも嫌だったので俺は素直に答えた。 「迷ったんだよ。お前、女子寮がどこにあるか知らねえか?」 「女子寮…?」 ソイツは俺の男言葉に違和感を持つことなく首をひねる。なんか、庇護を掻き立てられる奴だ。 「たぶん…、そこに書いてあると思うけど…」 と言いながら俺が持っていたパンフレットを指差した。しまった、存在をすっかり忘れてた。 確認するとたしかに最後のページに校内案内図が記載されていた。ああ、恥ずかしい。 「見つかった?」 「おう。さ、さんきゅう」 この地図には噴水の場所も女子寮の場所も、ご丁寧にかかれてある。これさえあればちゃんとたどり着けるだろう。 「良かった。でも…どうしてこんな朝早くに……」 美少年はそこまで言ったとき、はっとしたように顔を手で探った。 「め、メガネがない…!」 目を白黒させて取り乱し始めた美少年を安心させようと、俺は持っていた眼鏡を返してやった。 「ほら、邪魔だったからとったんだ」 俺が差し出した眼鏡を見て、ほっと息を吐く美少年。おおげさな。 「こ、小宮さんが持ってたんだ。良かった…」 眼鏡を受け取りすぐにかける。綺麗な顔が一瞬で台無しになった。 「つーかそれ伊達だろ? なんでそんなのつけてんの? つけない方がぜってーいいって」 「こ、これは…、あの、その……」 だんだん声の大きさが小さくなっていく。駄目だ、コイツたぶん俺の一番苦手なタイプだ。 「…ま、俺には関係ねーけど。じゃそろそろ行くから。おしえてくれてサンキュー」 「あ、…うん、またね小宮さん」 俺はその瓶底少年に背を向け走りながら手を振り、女子寮へと急いだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |