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未完成の恋
007


「やるって、…何を」

「何って」

九ヶ島は俺の顎にかかっていた手を離して、今度は俺の腰に手をまわした。

「セックスに決まってんだろ?」

奴の言葉に俺は乾いた笑みが自然とこぼれる。

「誰と、誰が」

「俺とお前以外に誰がいる」

はっ。

「黙れ変態、寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ。俺にそんな趣味はない」

「俺は大真面目だけど」

駄目だ。コイツ何にもわかってねえ。
俺は九ヶ島の手をわざと乱暴に払い、2、3歩後ずさった。

「どうやらどうしても、痛い目にあいてえみたいだな」

わからないなら体にわからせてやるまで。やっぱりこっちのほうが俺らしい。
俺はゆっくり拳をかまえ、重心を低くした。

「俺を殴ったら、ひなたちゃんが悲しむんじゃなかったっけ?」

「不可抗力だ、不可抗力」

はぁ? という顔をした九ヶ島に俺は最後の警告をする。

「九ヶ島、どうしてもひなたと、別れねえってのか」

「ん? 別れるぜ。圭人が俺とヤってくれんなら」

訊いた俺がバカだった。

これ以上コイツを口を開かせてたまるかと、俺は勢い良く拳を振り上げた。

「悪く思うなよっと…!」

奴の顔は俺が振り下ろした拳でぐちゃぐちゃになる、はずだった。
それなのに。

俺の拳は宙をきり、ワケがわからないまま固いコンクリートに叩きつけられる。
気がついた時には、俺は奴に押し倒されていた。

「な……ぁ……」

痛みと驚きで声が出ない。
見えなかった。奴の動き一つ一つが、見えなかったんだ。この、俺が。

「驚いて、声も出ないってヤツか?」

九ヶ島はいまだこの状況が理解できない俺を見て、本当に楽しそうに笑った。

「なんで……」

九ヶ島は俺の体を組みしいて、ペロッと舌を見せた。

「お前、俺がただのイキった不良だと思ってたんじゃねえの」

思ってたよ。だって、そうだろ。

「残念ながら、それは違うな」

なんだって?

九ヶ島はバカみたいに開けたままの俺のネクタイを、しゅるっとはずした。

「なに…を」

奴は俺のブレザーを手際よく脱がし、雑に投げ捨てた。

「お前さぁ、颯太と同じ部活だったんだよなぁ」

九ヶ島はネクタイで俺の両手首を縛る。驚愕で固まったままの俺の体は抵抗できない。

「で、部活時代、颯太には一度も勝てなかったんだって?」

こんな状況なのに、俺は奴の言動に腹がたった。颯太先輩は空手の県大会で優勝したんだ。勝てないのは当然だろう、と。

そんな俺の心の内を知ってか、九ヶ島は憤慨する俺を見てせせ笑った。

「そんなお前が、俺に勝てる訳がねえ」

そう言って俺のシャツのボタンをプチプチ外していく。俺の中でなにかがぷっつりと切れた。

「テメーが先輩より強いって言いたいのか? ふざけんな! 寝言は寝て言え!!」

颯太先輩は俺が一番尊敬する人だ。先輩がこんなチャラい不良に負けるわけがない。
九ヶ島は俺の怒鳴り声を聞いて、初めて不機嫌そうな顔になった。

「…お前さぁ、この状況わかってんの? そんなこと言ってる場合じゃねえだろ?」

「颯太先輩バカにされて黙ってられるほど、俺は器用じゃないんでね」

俺はキレていた。だが九ヶ島のほうも、本気で怒っているようだった。

「……わからねえなら、無理矢理にでもわからせてやるよ」

俺が反応するよりも早く、九ヶ島は俺の唇に自分の唇を重ねた。

「んっ…!?」

俺は必死で奴から顔をそらそうとしたが、奴の手が俺の顔を掴んで離さない。そうしているうちに口内になにかザラリとしたものが侵入してくる。
九ヶ島の、舌だ。

「んんっ……ん…!」

ぴちゃぴちゃと嫌な音が聞こえた。やめろ! と叫びたいのに、九ヶ島は俺が声をだすことを許さない。口を開ければ否応なく奴の舌が入り込んでくる。
酸欠になる寸前になって、やっと九ヶ島は俺から離れた。

「はぁ……はぁ…」

男との──九ヶ島とのキスなんかで息がきれる自分が嫌だ。奴は息一つ乱していないのに。

「お前…ヤバいな……」

なにが、とは訊けなかった。奴の顔をまともに見ることも出来なかった。

そんな俺のベルトをなんの脈絡もなく九ヶ島が外そうとしてくる。必死で抵抗するが、俺の手は縛られていたし、足は奴の膝で押さえつけられていた。いつもならこんな状況一瞬で打破できる。だがいくら力をいれても奴の体はびくともしない。
俺は悟った。
もう駄目だ。コイツには勝てない、と。


「…本当に、ひなたと別れるんだな」

俺の言葉に奴の手が止まる。

「………あぁ」

俺は意を決して九ヶ島と目を合わせた。本当はすごく怖い。奴の獲物を捉えた肉食獣のような瞳、その眼光を見るだけで奴のすべてを恐れてしまう。今の俺は九ヶ島が手を少し動かすだけでびくびくしていた。今まで感じたことのない恐怖が、じわじわと全身に染み渡っていくのを感じる。

「だったら早く犯れよ。俺とヤりたいんだろ、九ヶ島」

もしかしたら、俺は泣いていたのかもしれない。奴がひどく楽しそうに笑っていたから。

「…あんまり、男を誘うもんじゃねえぞ」

そう言ったが最後、奴はまるで獣のように俺に襲いかかってきた。激しい愛撫、痛いくらいのキス。そして──


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あきゅろす。
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