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未完成の恋
008


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「じゃあ母さん、しばらく出張で帰れないから」

母親は感情のこもらない声で、1人ソファーに座る俺にそう言った。

「あぁ」

俺が答えると、母親は壁に立てかけていたキャリーバックに手をかけた。

「お金は毎月送るわ。私がいない間、大人しくしてなさいね」

口調は冷めていた。
表情は……見ていなかったから、わからない。

何も言わない俺を気にもせず、母親は玄関に向かった。俺から、この生活から逃げるために。

俺が最後に見た母親は、この家をためらいもせず出ていく後ろ姿だった。
しとしとと、雨が静かに降っていた。







あの女の本心はまるわかりだ。
俺に愛情なんてない。そんなものがあるなら、中学1年生になったばかりの一人息子を家に置いていったりしないだろう。

でもそれでもかまわない。俺だってあいつは大嫌いだ。離れて暮らした方が、いいに決まってる。

だから俺はそう言ってやった。俺の本音を思いっきりあいつにぶつけてやった。

これは、ただのその結果だ。

『圭人がそう言うなら』と出張を引き受け出ていった母親。
『あなたがそう言うから』と俺のせいにして出ていった母親。

お前だって、本当は俺と離れたいくせに。俺を理由にして逃げてんじゃねえよ。

言えば良かった。俺が嫌いなら、そう言えば良かったんだ。

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