未完成の恋
004
屋上は運悪く鍵がかかっていて昼寝が出来なかった。でも今さら授業なんて受ける気になれず、俺は校内をうろうろさまよっていた。
しゃあねぇ、校舎裏にでも行くか。
普段は外で寝るのは大嫌いだ。誰が通るかわからないからだ。俺に恨みを持つ奴なんてこの学校にはいないだろうが、昔の習性は簡単には消えない。
俺はひなたのいいつけを守り、靴箱からご丁寧に下靴を取り出して履き替えた。かったるいがスリッパのまま外を歩く姿をひなたに見咎められたら、面倒なことになる。
俺の足は校舎裏に向かっていたが、複数の話し声が聞こえてゆっくりと止まった。
ちっ、先約か。
軽く“お願い”して場所をゆずってもらってもいいが、お願いしたことがアイツにバレたら多分怒られる。
一体どんな奴がサボっているのかと、俺は校舎の角から様子をうかがった。
げっ。
そこにいたのは、九ヶ島成瀬。
とそのオトモダチ。
奴らは数人でコンクリートでできた地面に寝転んでいた。九ヶ島はエラそうにあぐらをかいている。
あぁそうだ。颯太先輩が『九ヶ島がサボってる』って言ってたっけ。
俺は予測出来なかった自分に心の中で舌打ちして、奴らに気づかれないうちにその場を立ち去ろうとした。
だがその瞬間、俺は九ヶ島と目があってしまった。
あぁ、見つかっちまったよ…。
俺は奴らに聞こえないくらい小さく舌打ちした。
別に悪いことでもないのだが、俺はなんとなく奴に気づかれたくなかった。
学校一の不良ヤローに何か言われる前に、俺は奴から目をそらしその場から逃げようとした。
だが、
「九ヶ島さぁ、1年の天谷ひなたと付き合ってんだってぇ?」
九ヶ島の取り巻きの1人が言った言葉に、俺の体は止まった。
「ああ」
初めてまともに聞く奴の声は低く、鋭く尖っていた。
「いいよなー、九ヶ島はモテモテで」
ワックスで髪をベタベタに固めた男が言った。俺に背を向けているために顔は見えない。
「天谷ひなたって、あのチョーかわいい1年だよな!?」
アクセをジャラジャラつけた男が叫んだ。九ヶ島以外はまだ俺に気がついていない。
「くそー! あんなカワイコちゃん一度でいいから抱きてえー!!」
俺は一瞬そいつをぶん殴りたくなったが、少しばかり残った理性にしがみつき、拳をギュッと握るだけで我慢した。
それなのに。
次の奴の言葉は、俺の理性を簡単にぶっ飛ばしてくれやがった。
九ヶ島は俺をチラッと一瞥すると、口の端を歪めてこう言った。
「まぁそう僻むなって。飽きたらお前ら全員に、好きなだけヤらせてやるよ」
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