未完成の恋
002
いきなり1年のクラスに2年がやってきて、俺のクラスメートはかなり驚いていた。しかもあの九ヶ島と仲の良い颯太先輩だ。彼を知らない生徒はいない。
「2年がここにいちゃ、やっぱマズいのか?」
まわりのただならぬ視線を感じて、颯太先輩が俺に尋ねた。
九ヶ島ほどではないにしろ、颯太先輩のファンは多い。それに気づかないところが、また彼の人気の一つだ。
「先輩、なんでここにいるんですか」
俺の質問に、先輩は顔をしかめる。
「なんだぁ? 俺がいちゃ迷惑なのかよ。天谷ひなたが成瀬と弁当食ってるから、俺がお前と一緒にランチしてやろーと思ったんじゃないか」
そうわざと恩着せがましく言いながら、颯太先輩は身を乗り出し俺に近づいた。
「それは、どーも」
「かわいくねー後輩」
わざと冷めた口調で礼を言う俺の頭を、先輩は押さえつけるようになでる。
俺は購買で買ったパックのお茶にストローを勢いよく刺した。
「そーた先輩…」
「んー? どした?」
俺はたいして美味しくもないお茶を飲み込んだ。
「九ヶ島は、ひなたに本気なんでしょうか」
颯太先輩がパンを食べる手を止めた。
「先輩は九ヶ島と仲良いですよね。先輩から見て、どう思いますか?」
俺は核心をつきたかった。九ヶ島がどうでるかで、これからの俺の行動が決まる。
「成瀬が本気じゃなかったとして、圭人はどうするんだ?」
「…俺は……」
ぶっ潰してやる。
本音はこれだ。
でもそれは、ひなたが望むことではない。
「ひなたが出来るだけ傷つかないように、努力します」
ひなたは自分だけを愛して欲しいなんて思ってない。いや、確かにそれはアイツの願望だ。でもひなたは、九ヶ島のそばにいられるだけでいいなんて言う。そんなこと言われたら、俺は何も出来ない。
颯太先輩は言いづらそうにゆっくり口を開いた。
「俺はずっと成瀬を近くで見てきた。アイツの今までの性格を考えて言わせてもらえば、九ヶ島が特定の誰かを好きになるなんて、ありえない」
俺は深く息を吐いた。わかっていたことだったが、あらためて何であんな奴、とひなたを責めたくなった。
「圭人、あんまり1人で頑張りすぎるなよ。悩みが出来たら、俺に言え」
「颯太先輩…」
先輩がかけてくれたのは、俺のことを真剣に思っての言葉だった。
「俺は、大丈夫です。でも何かあったら、絶対先輩に相談しますよ」
「おぅ」
颯太先輩はいつものさわやかな笑顔を俺に向け、再びパンを口に運んだ。
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