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夢見
愛さえ知らない


よく人に言われた。

キミの表情からは感情を読み取れない

と。

それもそのはず。

だってわたしは…







アルヴィンに雇われてからどの位経っただろうか。


「おはよう姫さま」

「おはようアルヴィン」

アルヴィンが私の頭を撫でる。
優しく、優しく。

その手の暖かさを感じると、胸が締め付けられそうになる。

「どうした?」

アルヴィンは私の顔を覗き込む。
綺麗な顔が目の前に来て、思わず目をそらした。

「なんでも、ないよ。」

きっと、顔は真っ赤なんだろうな。

「どうしたのかなぁ姫さま?俺に見とれちゃった?」

「なっ!?」

思い切り首を横に振れば、アルヴィンは苦笑いをしながら手を挙げた。

「おたく、本当に面白いねえ。」

「面白くないです!からかわないで下さいっ!」

そういって私は洗面台の方へ行き、アルヴィンが来られないようにドアを閉めた。

「…ああああ……」

ドアに背を預け、溜め息混じりに声をだす。
真っ赤になって熱を発している顔に当てた手がやけに冷たく感じる。


朝からドキドキしすぎている。


(この胸の鼓動はなに?


私は知らない。
アルヴィンに雇われてから


何か変だ。


何かの病気、なの?


アルヴィンを見るだけで


こんなにも緊張してしまう。


こんなこと、今まで無かったのに。


こんなに人って温かいの?


今まで


ずっと独りだったから


わかんないよ)



彼が撫でてくれた頭に手を触れる。


(アルヴィンの手、大きかったなあ。)


今まで一度も頭なんて撫でてもらわなかったのに。


彼に雇われてから毎日のように撫でて貰っている。


(こんな温もりは知らない。


父さまも母さまも


こんな温もりはくれなかった)


ただ一族の掟に従い自分の子に武術を教え、戦術と戦場での生き抜き方を教えてくれただけ。

褒められもしなければ

期待もされない

ただ失敗は赦されなかった。
何かを失敗すれば

厳しく咎められた。


家族は居ても、


心はずっと独り。


(今の生活とは、まるで正反対だわ。)


アルヴィンは戦闘で上手く立ち回れたときに褒めてくれる。

精霊術にも期待してくれる。

失敗しても
厳しく咎めない。

「大丈夫だ。」

と言って失敗に対処してくれる。


心がホカホカしてて


(あったかい…)


そんなことを思っているうちに、涙で前が霞んできた。


「やだ、なんで泣いてるのわたし?」


とめどなく溢れてくる涙に戸惑う。


「なん、で?…こんなに温かいのに?なんでこんなに辛いの?」

いつもアルヴィンを目で追っている自分がいる。

主を護る為に、常に共に居る。

だけど


(アルヴィンが心配だから目で追ってるんじゃ無い。)


ただひたすら望んでいる。


(わたしを見て


わたしの名を


呼んで。


あなたが付けてくれた名を)










************
「キルシェ、大丈夫か?」

ふと、ドアの外からアルヴィンの声がした。
思ったよりも時間が経ってしまったようだ。

「ごめんなさい、…大丈夫。」
おずおずとドアを開ければアルヴィンが心配そうにこちらを見ていた。

「…その、さっきはからかい過ぎた。……ごめんな。」

アルヴィンが申し訳なさそうに謝った。


「っ、違うの。そんなこと、気にしなくて良いの。…ただ…」

「ただ?」

「…ただ……辛くて…」


わたしは、何を言い出すのだろう。


「アルヴィンを見てると、胸が苦しい。名前、呼んでもらうだけで、頭を撫でてもらうだけで、心臓が痛いくらい早くなって……わたしは、ただ…主さまであるアルヴィンの役に立ちたいだけなのにっ、なのに…」


溢れる涙さえ気にならない。
わたしはアルヴィンのコートの襟を握りしめ、アルヴィンの胸に顔をうずめた。


「わたし、冷静になるどころか緊張してしまう。こんな気持ち、知らない。こんなの初めてで」


アルヴィンは驚きながらも受け入れてくれている。


「苦しい、辛い。どうすればいいの?何かの病気なの?…アルヴィン…」


助けてほしい、と思った。
これが、縋るという行為なのだろうか。


「キルシェ。」


ふと、静かな声でアルヴィンが名を呼んだ。そして静かに続ける。

「俺も、キルシェと同じ気持ちだよ。」


「え…?」

「キルシェを見てると、落ち着かない。」


「わたしが…邪魔ってことですか…?」


「違う。…最初会ったとき、キルシェはボロボロで疲労で倒れて。回復したと思ったら、俺に雇ってくれと言ってきた。」

わたしは初めてアルヴィンと会ったときを思い出した。


「最初は変なヤツだと思ったよ。雇ったのは良いが、殆ど感情を見せないし。」


アルヴィンはわたしの目を見つめる。

「だけど一緒に居るうちに、俺の中でのキルシェがどんどん大きくなった。」

「どういう、ことですか?」


「分かんねえか?」


「……ごめんなさい。」

理解できないわたしに、失望しただろうか。


「俺にもさっぱりだ。」

「え?」


予想外の答えに間抜けな声を出してしまった。

「冗談だよ。…そうか、キルシェは知らないのか。」

「…はい。」

「なら教えてやるよ。」


アルヴィンはわたしの耳元に顔を寄せて、静かに囁いた。

「     」


「っ!?」

囁かれた言葉に思わず赤面する。

思えば良く表情が変わるようになったものだ。

「つまりこの気持ちは、そういうことだと思うんだが……キルシェはどうだ?」

真剣な目で問われる。

「…たぶん」

囁かれた言葉が何故か妙にしっくりして。

「同じだと思います。」

それがわたしの気持ちでもあるんだろうと思う。
こんな気持ち、今まで知らなかったのだけど。


「そうか。…キルシェ」

アルヴィンは私の答えを聞くと、少し恥ずかしそうにしながらも名前を呼んだ。

「これは命令だ。」

“さん”付けと敬語禁止以来の命令を宣言される。


「なんでしょうか。」

「これから何があっても、俺の側から離れるなよ。」

絶対にだ、と念を押される。

「御意のままに。」

それを聞いたアルヴィンはわたしに笑みを向けて、わたしに優しく口付けをした。


いつの間にか、胸の苦しさが無くなっていた。




*****************



よく人に言われた。

キミの表情からは感情を読み取れない

と。

それもそのはず。

だってわたしは…


愛さえ知らない

人間だったのだから。


でも今は

ちゃんと笑えているでしょう?














(おたく赤面する以外はホントにポーカーフェイスだったもんなあ。)(そうなの?)(今はよく笑って泣くけどな。)(…そう?)

***********************
再びジャンピング土下座ズザアッ

知らない温もりに触れて恋に発展し、悩みまくるキルシェちゃんです。
某GAGAさまのpoker faceの歌詞の、

『彼は私のポーカーフェイスを読めるはずがない』

『愛さえ知らない顔』

という部分から連想したものですすみません趣味に走りました。
ちなみにもうちょい続きがあったり無かったり←

ここまで読んでくださったキルシェさま、ありがとうございました!
宜しかったらまたいらしてください!

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