幻想詩編 -紅- 幼き刃を身にかざし 風を友に禍つひ霊は ただ ただ、憂い 出でし野山に火を放つ 亡き者の為に施す印は 何れの約束と果たすのだろうか その瞳は仄暗く 私の昨日に向けられる 私の姿は映らない 喜びを忘れた 悲しい悲しい 独り墓地 無に踏み出す 暗がりが怖い 割れた杯は戻らず 葡萄酒に溺れる 狼は腹を鳴らし 赤い牙を覗かせる 流れに逆らう者は流され 船に乗る者は沈む 此処は紅い海 黒い太陽が沈む 我 魂魄の鎖をもって鳥を討つ さすれば 咆哮する音をもって奏で 冷血に身を裂いて空を染める これを八重に重ねるとする 胡蝶の夢は続かない いずれは戻る現の夢 地に足を空に手を やがては終わる現の夢 私は帰る夢の島 貴方が溺れた紅い海 私はそっと 船を流す 紅い果てを見つめて されども、もう… 月は、くれない [←前][次→] [戻る] |