Zill O'll infinite Breezy FrenzyG 「もうシンったら!何女の子を泣かせてるのよぉ! 天国でフリントさんが泣いてるんだからぁっ!」 「う、うぇぇ……何でお前がここに来たんだよルルっ!」 突如現われた新たなる闖入者……シンとレイの義妹・ルルアンタが小さな体を震わせて叫んだ。 そして大好きなルルアンタに叱られて、シンの動きが若干鈍くなる。 「ちょっとぉ、レイまで一緒になって何やってんのぉ! 朝早くからどっか出掛けていってなかなか帰ってこないと思ったら……こんな所で人攫いをしようとしてるだなんてぇ!」 「ち、違う!話を聞いてくれルル!話せば長くなるがこれには深い理由が……!」 「駄目ぇっ!どんな理由があろうと女の子を泣かすような真似をするのは、ルルアンタが許さないんだからぁっ!」 そう言って懐からハリセン……ではなく、ショートソードを取り出して威嚇を始めるルルアンタ。 彼女が威嚇する姿はむしろ可愛らしい印象なのだが、その手に握られているのは何とストラスエッジであった。(シンがルルアンタの為に苦労して手に入れた一品である) ナツキやキャロルなどはぽかんとその様子を眺めているだけだったのだが、ソウマ兄妹……特にシンにとってはかなり衝撃的だったようだ。先ほどのテンションは明らかに衰えて、その表情は真っ青に染まっている。 なかなか忙しい人ね……とこっそりイリアは思ったのだが口には出さない。可哀相なくらい青ざめた顔のシン、何だか今にも泣き出しそうだ。 「ううっ……俺はもう駄目だ。レイ、ナツキ、キャロル……後のことは、任せ、た……(ぱたり)」 「おい、冗談はよせシン!この、軟弱者がぁぁっ!」 「シンさん、しっかりして下さいッ!ルルアンタさん、お願いですから今だけは見逃して下さい!!!」 「駄目だよキャロル!うちのシンとレイを悪い道に引きずり込もうとするなんて、女の子相手でも容赦しないんだから!」 「……(ぼそ)ぶっちゃけ、引きずり込んだのは私とシンなのだがな……」 「……姉ちゃん、ナツキ兄ちゃんどうしよう。何だかシン達が可哀相になってきた……」 「……俺もどうしたらいいか分からなくなってきた」 「何か私達、蚊帳の外って感じじゃない……?」 ソウマ家の兄妹喧嘩(?)を見守り、何だか毒気を抜かれてしまったノーブル姉弟。 しかし彼女達は気付いていなかった。これがシンの企んだ作戦であるという事など……。 「……なぁんてな、よっしゃ今だキャロル!早く呪文を唱えろ!!!」 「うわわわわっ……分かりましたシンさん! ごめんなさいイリアさんチャカさんルルアンタさん!え〜いっ!!!」 不意を付いていきなり起き上がったシンが叫び、それに呼応してキャロルが魔法を放つ。 その行動を予測できなかったイリア達は防御する事も出来ず、あっさりと魔法――スリープのマインドスペルを思いっきり食らい、眠りの中に誘われてしまったのだった……。 「ふー、俺の演技もなかなかのもんじゃねーか☆ ごめんなルル、騙すような真似しちゃって……お叱りは明日、しっかりがっつり受けるから今日だけは勘弁な!」 そう言って、眠りに就いてしまったルルアンタの体をぎゅーっと抱きしめるシン。 同じくナツキは自分の腕の中で眠っているチャカに小さく頭を下げている。律儀な子なのである。 「それにしてもキャロルの魔法は素晴らしいな……。こんな大乱戦の中で、目的の人物だけをターゲットに魔法を放つ事が出来るなんて」 確かに、シン達を巻き込むことなく魔法を放ったキャロルの腕前は大したものであった。 スリープのマインドスペルは過去に犯罪に使う者が多発した為、現在市街で使うのは禁止されている筈なのだが……テンションの上がった彼らはそんな事情、都合よく忘れ去っていたのであった。 そしてしばらくしないうちに、第5の襲撃者(?)たるエストがシン達の元に駆けつけてきた。 「あ、上手くいったみたいだね皆!遅かったから、ちょっと心配してたんだよ!」 「済みませんエスト兄さん。思わぬ乱入者が来ちゃったもんですから、少し手間取ってしまって……」 「ま、それも俺の完璧な頭脳作戦で退けてやったけどな♪く〜っ俺って格好いいじゃん!」 「……何だかお前、テンションがガルドランの奴に似てきたな……。 まあいい。目的は達せられた。卿より先にイリアに接触する事に成功したぞ!」 「魔法もしっかり効いてますよ!イリアさん、こんなにぐっすり眠ってます!」 「皆、ご苦労様!作戦は完璧、完璧だよっ! 兄さんに気付かれないうちに早速準備に取り掛かって!僕はチャカとルルアンタを屋敷に運び込むから」 「よっしゃあぁぁっ!首を洗って待ってろよオニイサマ! あんたの愛しのお姫様を、可愛いリボンで包んで誕生日プレゼントに贈ってやるからなぁーっ!!!」 ……そう、シンが叫んだ通り、何と彼らは誕生日プレゼントにイリア自身を贈る計画を立てていたのだった。 下手に品物を贈るより確実に喜ばれると踏んだレイの発案にシンが乗り気になり、ナツキ達を巻き込み(彼らもやる気満々であったが)、犠牲者を出してまで進められたこの計画、何としても成功させなければならない。 ……余談だが、レイにこのアイディアを吹き込んだのはゼネテスであったりするのだが、その事実はシンも流石に知らなかった。 何も知らずに眠り続けるイリアの寝顔は、さっきまでの騒ぎの事など忘れ去ったかのように安らかなもので。 この寝顔を更に幸せに彩らせてやろうと、決意を新たにする自称・愛の伝道師達なのであった―― [前へ][次へ] |