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Zill O'll infinite
A Votre SanteA
「……ああ、何だか顔が灼けるように熱いわ。世界がぐるぐる回ってる……」

「飲みすぎだ、馬鹿者。節度というものを知れ」

顔を真っ赤にしてソファに突っ伏したイリアを、呆れたような表情でレムオンは見下ろした。
酔っ払ったイリアに無理矢理飲まされたチャカと、ふらつく足取りの彼を連れたエスト、セバスチャンも片付けを終えて既に此処から去った後だ。

つまりそれは、イリアとレムオンが二人きりで此処に残されたことを意味している訳で。
エストとセバスチャンはそれを狙っていたのだと、レムオンはしっかり気付いている訳で。
鈍いイリアはそんな事知る由もなく、無防備な姿でソファに寝そべっている。

「何だか意識が朦朧としてる。部屋に戻るの面倒くさいわ……このまま此処で寝ちゃ駄目?」

「駄目だ。こんな所で寝たら風邪を引くぞ」

世話の焼ける娘だ……そう言いながら義妹の身体をひょい、と抱え上げる。



「ごめんなさい、兄様。本当にお世話かけます」

「全く、酒が弱いくせに飲みすぎなのだ」

「……こんなに賑やかなクリスマスを過ごすのって、久し振りだったから。
少し、羽目を外しちゃった」


父さんと母さんがまだ生きてた頃はね、私とチャカと4人で、毎年賑やかにお祝いしてたのよ。
小さなケーキといつもより豪華な夕食。みんなでお祝いの歌を歌って、ケーキの蝋燭を吹き消して。
決して裕福ではなかったけど、それでも私は幸せだった。
だからね、今日こうやってみんなで楽しく過ごせた事、本当に嬉しかったのよ……。


夢現の状態で、ぽつぽつと語りだすイリア。
腕の中で柔らかく、幸せそうに微笑む彼女が堪らなく愛おしく感じられ、レムオンは無意識のうちにイリアに顔を寄せていた。
それに気付いたのか、イリアも嬉しそうに頬をすり寄せてくる。

「ありがとう。大好きな兄様と一緒に過ごせて、幸せです……」



――ああ、この娘はかなり酔っているのだ。だからこんな言葉を、恥ずかしげも無く口に出来るのだ。
そして今の俺も、大分酔ってしまっているらしい――



唇を、重ね合わせる。
愛おしい少女の存在を確かめるかのように……額に、頬に、首筋に、何度も何度も口付ける。
少女がくすぐったそうに身動ぎする。その動きを封じるかのように、強く彼女の身体を抱き締める――



かたん、と。
不意に部屋に響いた音で我に返った。



(俺は今この娘に、何をしていた……?)

安らかな表情で眠りに落ちたイリアとは裏腹に、レムオンは先ほどの自分の行動に愕然としていた。
違う、あれは平常心で起こした行動ではない、酔っていたのだと、何度も自分に言い聞かせる。
まだ早い、この想いを伝えるには、まだ今は早すぎる――

もう一度この少女に触れてしまえば、きっと抑えが利かなくなる。
しかし、彼女をこのまま此処で眠らせておくわけにもいくまい。
セバスチャンか誰かに運ばせようと、半ば途方に暮れた気持ちでレムオンはその場を後にするのだった。
イリアの幸せそうな寝顔を、最後に視界に焼き付けて。





「ねぇねぇセバスチャン、今の見たよね?」

「はい。しかとこの目で拝見しました」

「オクテだと思ってたけど、兄さんもやる時はやるんだね。僕見直しちゃったよ!」

「私は始めから、レムオン様の事を信じておりましたよ」

「これでリューガ家の将来は安泰だね!
あ、分かってるとは思うけど、今見た事はチャカには内緒だからね?」

「勿論、承知しております」

「ふふっ、最高のクリスマスプレゼントをありがとうね、兄さん!」

二人のウォッチャーは顔を見合わせ、悪戯っ子のように微笑むのだった。


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