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07



「エドガー。奥さんは大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。気にすんな」


徐々にスピードを落とし、エドガーは窓を開けると煙草に火をつけた。
紫煙を吹き出すエドガーの後ろでシンはぼんやりと外の風景を眺めていたが、次の瞬間、彼はハッとして窓から身を乗り出した。


「?シン?どうかした──」

「…上だ、避けろ!」


えっ、と思った瞬間、車体を凄まじいばかりの衝撃が揺るがして悲鳴が上がった。車体上部を突き破って槍の切っ先が顔を出し、みるみるうちに車内を凍らせていく。


「嘘でしょ!?」

「ち…!追い付きやがったか!」


振り落とさんばかりに滅茶苦茶にハンドルを切るが、刺さったままの槍は抜けず、みるみるうちに覗いている切っ先は深くなっていく。


「しつこい!!」


真ん中に座っていたメイファを引き寄せ、優は神器を発現させて、車内を侵食していく氷を溶かす。それでも侵食のスピードは遙かにそれを凌駕しており、徐々に車のスピードが落ちていった。


「…やべ、エンジンがやられかけてる」

「飛び降りましょう!」


凍り付いたロックを破壊し、皆は道路に転がり落ちた。操縦者を失った車はそのまま暫く走り、やがて完璧に凍り付いて動かなくなった。


「…あーあ、まだ暫くローンが残ってるってのに」


エドガーのそんな声を聞きながら、優達は油断なく各々の得物を構えた。停止した車の上でゆらりと影が立ち上がる。


「私から逃げられるとでも思って?」


槍を引き抜き、振り返ったイヴの声が風にさらわれるのを聞きながら皆は臨戦態勢を調えた。


「…こうなったらもう実力行使しかないネ」

「女に手上げるのは趣味じゃねぇんだけどなぁ」

「そんな悠長な事言ってる場合ではありませんわ!」

「くそっ…!」

「行くよ!!」


優の声を皮切りに皆は一斉に大地を蹴った。


「観念なさいっ!」


先手を打ったのはアナスタシアだ。彼女は微塵も迷いのない太刀筋でイヴに躍りかかる。体全体の重みの込められた一撃は、防御しきったイヴの姿勢を崩させた。


「あら。“お飾り師団”のくせにやるわね」


その言葉に一気に剣を宿すアナスタシアの瞳。


「馬鹿にしないで下さいませ!」


感情にまかせた一閃はいとも簡単にイヴに防がれる。愉快そうに口元をゆがめたそんなイヴの頭上を小さな影が飛び過ぎる。


「邪魔よ。チャイニーズ」


アナスタシアの槍を弾いて一歩後退すると、イヴは頭上に向かって槍を突き出した。瞬く間に周囲の空気が凍り付き、吹雪が発生する。


「ひゃあっ!」

「メイファ!」


体を掬われ、メイファは転倒した。その横を黒い影が駆け抜ける。


「イヴ!!」


シンである。雷光を渦巻かせた神器と共に大地を蹴ったシンの姿にイヴの瞳に狂喜の色が宿る。

激しくぶつかる神器同士。噛み合った箇所から発生する互いの力が、周囲の大地を抉り取っていく。イヴは視線をゆっくりとシンに絡ませた。


「シン。どうして私に剣を向けるの…?」


何処か媚びるような声色にシンは奥歯を噛み締める。


「私達は同じ薔薇十字団の一員よ?どうして同志である私に剣を向けるの?」

「だったらどうしてあんな機械を使っていた!科学技術は異端の技術、教団の教えに反するんじゃないのか!」


吼えたシンにイヴはふっと口元を綻ばせ、薄い唇をゆっくりと開いた。


「あなたが科学技術を否定するのはお門違いと言うものよ」

「な、に…?」

「だけどね、シン──」


シンの神器を弾き、イヴは彼の間合いから外れた地点に着地した。それでも得物の長いイヴにとってそれは完璧間合いの内だ。


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