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06



「だけど、女神様は気付かないと駄目でしょ?私達の指導者なんだから」

「……っ」

「イザヤからね、言われてるの。彼、ずっとあなたを捜してる。ねぇ女神様。彼のところに行ってあげて頂戴?」

「絶対嫌!」


間髪入れずに叫んだ優の答えは想定範囲だったのか、イヴは微笑みを深めた。


「そんな事言っても駄目よ?他の始祖達もあなたの事を捜してる。いつまでも逃げられるものではなくてよ?」

「そんなの関係ない!」

「…あのねぇ、女神様。あまり手間を取らせないで頂戴。責任放棄は認められないわよ」

「イザヤの助けになる事なんかあたしは絶対にしない!」

「なんて我侭なのかしら」


イヴの碧眼は冷たい。


「ねぇ、女神様。私達が何のために覚醒したと思っていて?私達の意志も汲んで下さらないと」

「意志ねぇ。お前さんら最初から意志なんてもんはないんじゃねぇのか?ただ女神の御心に従ってるだけだろ」

「言葉は慎んだ方がよくてよ。エドガー・ロックウェル」


不快げにイヴは目を眇めた。


「始祖が皆盲目的に女神を愛しているわけじゃないわ。あの創世記の折、女神を憎悪しながら死んでいった始祖もいる。その事を忘れないで頂戴」


冷たく言い放たれた言葉に優の心臓が重く脈打つ。


「ね?女神様。言っておくけど、私ルカみたいに引く事は出来なくてよ?」


イヴの周囲で一気に魔力が増大する。冷気が踊り狂い、周辺のものを瞬く間に凍り付かせていく。


「大人しくして頂戴ね」


渦を巻いた冷気が怒濤の如く優に襲いかかる。優は神器を前に構え、その冷気の洪水を受け止めると己の魔力を最大限に高めた。周囲を陽炎が取り囲む。


「消えて!」


冷気と炎の弾丸が激しくぶつかり合い、相殺された事により水蒸気が立ち込める。
白い闇の中で、皆は打ち合わせも何もなしに扉を開け放つと一目散に廊下に飛び出した。

一面氷の世界と化した屋内。


「アイヤー…」


氷柱のぶら下がる天井を見上げてメイファは溜め息をついた。きらきらと吐息が結晶となって散る。


「殆ど凍り付いてるアル」

「…修理費請求決定だな。──リネット!」


キッチンに辿り着いたエドガーは、食卓用のテーブルの下にもぐっていたリネットに駆け寄った。


「悪い、リネット。ちょっとよろしく頼むな」

「エドガー…。…ううん、私は大丈夫。気を付けてね」

「サンキュ」


微笑んだリネットに軽く口付けを送ると、エドガーは鍵の束を取り出して勝手口から飛び出た。庭に止めていた車に素早くエンジンをかける。


「ほら、乗りな。早くしねぇとあのシスター様が来るぜ」

「ありがとう!」


全員乗り込んだのを確認し、エドガーは思いっきりアクセルを踏んで道路に飛び出した。その際、玄関先にあのヘリコプターが止まっているのを見てシンは息を呑む。


「あのヘリ…」

「さっきの女性が乗ってたのかしら…」

「──どうして…」

「シン、気に病むんじゃねえよ」

「病んでない!」


強い語調で言い返したシンにもエドガーは前方を見据えたまま動じない。


「まぁでもこれで分かったろ?薔薇十字団は自分達が異端と蔑んでいる科学技術を用いてるって事がよ」

「ふざけんな…だったら俺は──…」


それ以上は言葉にならず、シンは強く唇を噛み締めて押し黙ってしまった。

車は猛スピードのまま車線を突っ切っていく。街道から外れ、優達を乗せた車は郊外にある人通りの多くない道を走っていた。


「ここまで来れば大丈夫かしら…。優、ヘリ見えます?」

「大丈夫。なにも追ってきてないよ」


その言葉に車内にやっと安堵の空気が流れた、窓を閉め、優は座席に深く身を沈めた。


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あきゅろす。
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