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04



「何の異常も無ぇ。だが、今の技術で分かってる染色体異常のどれにもお前さんの染色体は当てはまらねぇんだ。重複も逆位も何も発生してねぇ。構造は限りなく人類に近い──でも人類の染色体じゃねぇんだ。分かるか?」

「…」

「確証はねぇけど、それがお前さんがただの人間じゃなく“奇跡の紅”だって証拠だと思うぜ」

「………」






──ただの人間じゃない──






非科学的なもんだ、と、続けて呟いたエドガーの声は優には届いてなかった。


「…女神だからって、あたしはどうすればいい?」


自問するように呟かれたその言葉に、エドガーはぽんぽんと優の頭を撫でた。


「無理に答えを見つけようとすんな」


紫煙を吐き出し、エドガーははっきりと告げた。


「答えは見付けるもんじゃねぇ、自ずと出てくるもんだ。無理に捻り出した答えには、常に不安が付き纏っちまう。──普通にしとけ。それだけでいい」

「……うん」

「よしよし。──ほら、アップルパイでも食えよ。リネットのパイはマジでうまいぜ?」

「本当に美味しい…。こんなの、宮廷御用達の菓子屋にもありませんわ」


感嘆の溜め息をついたアナスタシアに、エドガーは誇らしげだ。


「あたり前だろ。リネットが作ったんだからな」

「エドガーと奥さんはラブラブアル!」

「あたりめぇだろ」

「…そんなすぐ答えられると、からかった意味ないアル」


拗ねたメイファの様子に室内に笑いが起こる。

その時、ぴくりとシンの耳が何かの音を捉えて、彼は用心深く周囲を見渡した。


「シン?」

「…しっ。声を立てるな」


遠くから微かに聞こえてきた断続的なエンジン音。その音に、皆は聴き覚えがあった。


「まさか…違う、よネ?」


エドガーは素早く立ち上がると、壁につめて窓を見上げた。快晴の空の中に見える小さな点。


「…ヘリだ」

「どうして!?なんで此処にいる事が──!」

「落ち着けって。あのヘリって決まったわけじゃないだろ」


それでも用心のために窓を閉じ、エドガーは素早くカーテンを引く。


「でも、その可能性は捨て切れませんわ。音の距離からしてあれはきっと…──」

「おいおい、誰か発信機でも仕込まれてんのか?」


エドガーが呟いたその時だった。凄まじいばかりの突風とエンジン音が窓ガラスを揺るがし、皆の表情が強張った途端、インターホンが鳴り響いた。


「……嘘…」

「リネット」


扉から半身を覗かせ、エドガーは来客を迎えようとしていた妻を小声で呼び止めた。リネットに下がるよう言い、エドガーは一旦廊下の奥へ消えると、細長い銃を担いで戻ってきた。優はぎょっとする。


「エ、エドガー!戦うアルか!?」

「脅し程度だよ。やばくなったらお前ら逃げとけよー」


返答を待つ事なく、エドガーは扉を開け放ち──そして目を白黒させた。


「こんにちは」


そこに立っていたのは、見覚えのない一人の女性だった。

そよ風になぶられる波打つ金髪を抑え、鈴の転がるような美しい声と共に微笑んでいる。
修道女を彷彿とさせる服装に身を包んでいるが、それは動きやすいように所々改造が施されている。それは修道女本来の清楚なイメージとはかけ離れていて、何処となくミスマッチな印象を与えた。


「どちらさん?」


決してライフルを置く事なくエドガーは尋ねた。と言うのも、女性の背後にはあのヘリコプターが停止しているからだ。


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