03
「何者、って───」
「薔薇十字団から捜索されてんだろ?余程の事をしたのか、若しくは余程の人材なのか。…いや、人材って言い方はちょっと違うかもしんねぇな。どうなんだ?」
「……」
「まっ、話したくないんなら無理しなくていいからな」
ちらりと優はシンを見た。だが、シンは深く何かを考え込んでいるようで優の視線に気付いた風はなかった。
戦慄くように息をつき、優は意を決して口を開いた。
「…ううん、話す。全部聞いて。全部本当の事だから」
そして、メイファもアナスタシアも、そんな優を決して止めようとはしなかった。
文字通り、優は全てをエドガーに伝えた。一言一言慎重に語る優の前で、エドガーは決して口を挟もうとはせず、ただ黙って彼女の話に耳を傾けていた。
やがて、優が全てを話し終えた頃には、煎れた紅茶がすっかり冷めてしまっていた。
「成る程ねぇ」
大して動揺する事なく、エドガーはコーヒーに口付けた。
「…奇跡の紅、か。女神ってのは現実に存在してたんだな」
「エドガーは神様信じてるアルか?」
「まさか」
エドガーは失笑し、そして淀みない口調で言い放った。
「俺は生まれてこの方神様なんて信じた事ねぇよ」
そのひどく重みを感じさせる物言いに思わず優は顔を上げたが、エドガーの表情は何も変わっていなかった。
「あっ、だからってお前さんの存在を否定してるわけじゃねぇからな。やっぱこの世には科学だけじゃ理解出来ねぇ事もあんだなぁ…」
「異端の技術に女神を理解されてたまるか」
「そりゃまた失礼」
シンの毒付きを華麗に受け流し、エドガーは白衣を再度着込んで優の前にしゃがみ込んだ。
「?なに?」
「ちょーっと失礼」
優のカーディガンの袖を捲り、エドガーはそこに白衣のポケットから取り出した小型の機器を巻き付けた。
「な、なに?」
「ちょっとした検査だ。痛いとか無ぇから安心しな」
優の腕に巻きつけたものと繋がっている機械の画面に目をやりながら、エドガーはぶつぶつと何かを呟いている。
「ヘモグロビン異常無し、血中酸素濃度も正常…。塩基配列、DNA構造はっと──うん、これも変わんねぇなあ。あとは染色体か…──ん?」
画面を見つめたまま、エドガーの動きが止まった。
「どうかしたの?」
「…おーお。こりゃまた…」
「?」
「お前さん、染色体について学校で習ったりしたか?」
「ちょっとだけなら。染色体は遺伝情報を担う生体物質でヒトの場合は23対46本なんだよね?」
「素晴らしい。模範解答だ」
機器を外しながら、エドガーは笑った。
「付け加えると、ヒトの2倍体細胞は、22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体を持っている。性染色体の組み合わせは女性では2本のX染色体、男性ではX染色体とY染色体1本ずつとなっている。女性の2本X染色体のうち片方は不活性化されており、顕微鏡下ではバー小体として観察される」
「でも、それが何の関係があるの?」
「その染色体が異常を起こすのは知ってるか?」
優は頷いた。
「テレビでやってるの、よく見るよ」
「物凄ぇ言葉を砕くとな、それがお前さんの染色体に発生してんだよ」
「…染色体異常?あたしが?」
「でもな、」
エドガーは機先を制する。
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