04
「──鬼ごっこはもうおしまいか?」
心臓が、跳ね上がる。
冷や汗が噴出し、優は青ざめた顔でゆっくりと、まるで錆付いた機械人形が無理に動くように後ろを振り返った。
両脇にそびえ立つブティック。
それよりかは幾らか低い、優の正面に建造されている二階建ての建物の屋上にその影はいた。
漆黒の服と金髪が風になぶられ、顔を覗かせた太陽の光を受けて、異端審問官の証ともいえる仮面と目元の金細工が浮き彫りとなった。
シンと言う名だが、優の知る由もない。
「………」
優は声もなかった。
ただ、一歩二歩、後ずさるのが精一杯だった。
優を見下ろしたまま、シンは無情に剣を鞘走らせた。
露になった銀色の刀身が鈍く輝く。
「散々コケにしてくれたなぁ、おい」
シンの声が静寂を裂く。
優は更に後ずさろうとしたが足は動こうとしなかった。
恐怖心が這い上がる。
「手間を取らせた分、刑罰は重くなるぜ。当然覚悟の上だろうな、アジアン」
その瞬間、屋上からシンの姿が掻き消えたかと思うと、彼は一瞬にして優の頭上に身を躍らせていた。
そこで優はようやく逃げる事を思い出した。
「──きゃあああっ!!」
足を奮い立たし、回避する。
一瞬先まで優のいた地点にシンが得物を上段から振り下ろした状態で着地していた。
石畳は、ものの見事に粉砕されてしまっている。
「ちっ。運が良かったな」
「…あ……っあ……」
恐怖に体を震わせ、優はへたり込んだ。
(──怖い)
優の脳は最早それしか考えられない。
得物を回転させ、シンは一歩ずつ間合いを詰める。
今度は外さないと殺気を放ちながら。
──そう、人は恐ろしい生き物。
恐慌状態に陥った優の脳に、何者かの声が反響する。
──彼らは自分とは著しく違うものを忌み嫌います。
シンは近付いてくる。
──同胞諸共殺され、私達の魂には人類に対する憎悪が刻み込まれてきた事でしょう。
間合いの内でシンは歩みを止め、ゆっくりと剣を上段に構えた。
──だけど……。
その時、異変が起こった。
それは視覚的なものではなく、優自身も気付かない程本当に微量なもの。
シンは仮面の奥でその蒼い瞳を眇めさせた。
──だけど…。
躊躇する事なく、シンは剣を振り下ろした。
その瞬間、頭の中で響く声が一際凛と告げた。
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