06(終)
やがて溜め息をつかれた気配がして、優の体はびくりと震えた。
「………顔、上げろよ」
その声が穏やかなものだったので、優は恐る恐る言われるがままにした。
シンの表情は、変わっていなかった。
怒りも、嘆きも、苦しみも、悲しみもなにもない。
そこにいたのは、いつものシンであった。
「何でお前が謝るんだよ。お前の意志じゃなかったんだろ」
「…シン……?」
「お前があんな事をする意味がない。それぐらい、俺だって分かるよ」
「………」
「イザヤなんだろ。あいつがお前の力を利用しただけなんだ。──俺はイザヤを追う。あいつに問いつめるんだ、何を思って教団を崩壊させたのか、お前は一体何がしたいのかを」
だから、と言ってシンは肩を落として溜め息をついた。
「お前が責任感じる必要は何処にもないんだよ。だから、気にするなよ」
だが、優からは何の応答もない。
不思議に思って顔を上げたシンはぎょっとした。
──優が、泣いていた。
あとからあとから溢れる涙を拭おうとはせず、ただただ涙を流していたのだ。
「…お、おい!なんで泣くんだよ!?」
大慌てでシンはティッシュ箱を差し出す。
優は泣きながら無造作にティッシュを数枚引き抜き、鼻を押さえた。
そして、まだ鼻声のまま小さな声でこう呟いたのだ。
「………もう……、なんで…っ」
「はっ?」
素っ頓狂な声を上げたシンに目もくれず、優は鼻をかむとゴミ箱にそれを投げ入れた。
「おい、何か言ったか?」
「…………っ」
未だ鼻を押さえたまま、優はティッシュに顔を埋めて肩を震わす。
「ちょ…っおい、まだ泣くのかよ!」
今度はハンカチを差し出したが、優はそれを受け取ろうとはせず、肩の震えも止まらない。
「…………優?」
恐る恐る覗き込む。
──顔を覆われているので不可能だが。
と、次の瞬間、首に思いっきり抱きつかれてバランスを崩し、あっと思った時シンはソファごと後ろに激しく転倒していた。
「〜〜〜〜っ!!」
強打した頭をさすりながら、上に乗っかかっている優を見る。
怒鳴ろうと思ったが、優は未だ顔を上げないので怒りの声は喉の奥に引っ込んでいった。
「……ごめんね」
静寂の空間に優の小さな声が響く。
「………謝る必要ないって言っただろ」
優は首を振る。
「ううん、………でも、ごめん…」
「………謝んなよ」
「……ごめん…」
「…、…謝んなっつってんだろ!」
「………っごめんね…」
「……っ、…畜生ぉ…っ話聞けよ…頼むから、謝るなよ…っ」
優に乗っかかれたまま、シンは堪えきれずに腕で目元を覆った。
静かな空間に、二人分の嗚咽が吸い込まれていった──。
to be continued...
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