03
「今起きたばっかりなんだろ?まだ寝ておけよ。俺、あっちでメイファとアナスタシアといるから、何か用あったら呼べよな」
それだけを言い残すと、シンは優と視線を合わせる事なく退出していった。
再度静寂に包まれる。
(……怒ってる、よね…)
ゆっくりと掌に視線を落とし、優は震えるそれを強く握り締めた。
ぽたり、と雫が落ちる。
「…、…っごめんなさい…」
頬を涙が伝う。
後から後から溢れるそれを、止めようとは思わない。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
どんなに謝罪しても許される罪ではない。
それでも、ついででるそれは抑えられなくて。
「…ごめんなさい…」
痛い。
痛い痛い痛い痛い──。
心が、体中が、魂が。
「……っごめんなさい…」
全てを奪ってしまったのだ。
彼の仲間も、彼の友人も、彼の教団も──。
「…ごめんなさい…」
止まらない涙を拭う事もせず、優は、ただただその言葉を繰り返した。
◇◇◇
廊下に出たシンは、扉に寄り掛かってそのままずるずるとしゃがみ込んだ。
「………」
ふと、握り締めている教団支給の仮面に目が止まる。
照明に翳すように持ち上げると金細工がきらりと光った。
「───…っ」
衝動的にそれを壁に投げつけた。
陶磁器で出来たそれは綺麗な音と共にいとも簡単に砕け、白い破片を絨毯に散乱させた。
「…、…くそ…っ」
弱々しく震えたその声は、誰の耳にも届く事なく天井に吸い込まれていった。
◇◇◇
「まあシン。もう起きても大丈夫ですの?」
「ああ」
ホテルの部屋でお茶の用意をしていたアナスタシアに頷き、シンはソファに腰を下ろした。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!