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02


そこで、シンは眠っていた。
仮面と外套を外し、疲れ切った表情でソファに仰向けて寝息を立てている。


「シン、ずっとあなたの事心配していたのよ?目覚めるまでここにいるって。もう一つ部屋を取ってるんだけど、ずっとここにいたぐらい」

「………」


林檎食べる?と訊かれたが、優はふるふると首を横に振った。


「…あの、今日は何日ですか?あたしどうしてこんな所に…ううん、薔薇十字団は…」


その言葉にアナスタシアは首を横に振り、優は青ざめた。


「シンが目覚めて…あなたも体調が万全になってからね?それからまだ色々状況が変わる筈だから」


メイファに離れるよう言い、渋々と言った様子でメイファは優の体から離れた。


「じゃあ私達、隣の部屋にいますわね。──ほらメイファ、行きますわよ」

「はあい。ばいばい、優。何かあったら言ってネ!」


手を振って二人はドアの向こうに消え、室内は相変わらずの静寂に包まれた。

重い体を動かし、ベッドから立ち上がった優は窓へと近寄る。
サン・ジェルマン音楽院がちょうど見えるこの部屋からは、以前なら薔薇十字団の本部も見えたはずだ。

だが、音楽院の隣からはあの尖塔が消え、ただ瓦礫の山が今でもうずたかく積もられている。



──薔薇十字団が、無い。



その事実に優は戦慄した。

急速に体温がひいていき、寒くもないのに体が震える。


(あたしが……──)


ゆっくりと掌に視線を移す。
あの時の光が脳裏に甦る。

凄まじい恐怖を感じた。
と同時に、言語に絶する罪悪感が脳髄を満たした。

眩暈がした。
体がぐらつき、サイドテーブルに足がぶつかる。
その際、そこに置かれていた新聞が散らばり、一面に飾られた「薔薇十字団本部崩壊」との文字が飛び込んできた。
そして、死傷者の数が計り知れないだろうという文字も、生存者も絶望的という文字も。



(あたしが…あたしがあたしがあたしが──!)
















「…………優?」


ハッとした。

弾かれたように振り返るとシンが目覚めていた。
優は後退る。
だが、すぐ後ろが窓だったのでそれは叶わなかった。


「………ぁ……」

「もう起き上がっていいのか?気分は?」


言葉を失っている優を気にせず、シンは伸びをするとソファから立ち上がった。
そして、床に散乱している新聞を掴むと、その記事に目を通す事なく、サイドテーブルの上に無造作に置いた。


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