05
「そっかそっか。大丈夫だよ、メイファ。結局イザヤはいなかったから無駄足だったし。ありがとう」
その時、優の腹があまりに場違いな音をたてて鳴り、目を白黒させたメイファに優は照れたように笑った。
「えへへっ。朝まだだったからお腹空いちゃった。ご飯食べに行こっか」
「うん!あ、そう言えばそろそろシンも戻ってくる頃ヨ」
あまり往来の多くない通りを進みながら、メイファはそんな事を言った。
「さっき電話かかってきたけど、あと一週間はかかるみたい」
「ロシアって結構遠いもんネ」
適当に近場にあったカフェに入る。
その時、見慣れた人物が一角の席に座っているのを見て優は思わず、げっと声を上げた。
「おや。優にメイファではありませんか」
それは優が今一番会いたいようで会いたくない人物──イザヤであったのだ。
今までのメイファなら彼のもとに駆け寄っていたが、生憎彼女は優の隣ですっかり警戒しきっている。
意に介した風もなくイザヤは微笑んだ。
「よく会いますね、今から朝食ですか?」
「あなた…こんなとこで何やってるの。シスターがあなたの事『勤務中によくいなくなる』って言ってたよ」
「ああ、イヴですね、成る程。──いえいえ、市内巡回中に少々小腹が空きましてね、軽食を取るところなんです」
「ふうん…」
優もメイファも一定の距離を縮めない。
ウェイトレスによって運ばれたパンケーキを口に運び、イザヤは前を指し示した。
「出入りの邪魔になりますよ、座られたらどうです?」
「………」
「そんなに警戒なさらなくても。今から朝食でしょう?店内はほぼ満席ですし、お気になさらずどうぞ」
「……」
やむを得ず二人はイザヤの前方に腰を下ろした。
それでも警戒は怠らない。
オーダーを取りに来たウェイトレスに適当なセットを頼み、優はそっと一息ついた。
「ところで、優」
「……なに」
「先程イヴが私の事を話していたと仰りましたが、優は薔薇十字団に何か用件でもあったんですか?」
ぎくりとしたが、優は平静を崩さなかった。
「……別に大した事じゃないよ」
「イヴに私の何を訊いたのです?」
「なにも訊いてないよ。ただ、シンもうフランスに帰ってきてるかなって思って受付の人に訊いたの。そしたら、そのイヴって人がたまたま近くにいて教えてくれただけ」
当然大嘘である。
かなり苦し紛れに出た言葉は言い訳じみているが、優はとにかく表情を崩さないよう努めた。
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