04
「彼ね、滅多に人の事誉めたりしないの。私が知ってる限りだったらイザヤとあなただけ」
両手を合わせ、イヴは長い睫毛を伏せて嬉しそうに口元を綻ばせていた。
「…じゃあ、司祭イザヤはまだ暫く戻られないんですか」
「そうね…。彼が戻ってきたら伝えておきましょうか?」
だが優は首を振った。
「有り難うございます、けど、別にそこまで急ぐ内容でもないですし、また後日伺います」
優はイヴに軽く頭を下げると、踵を返して施設から外に出た。
(ホッとしてる……)
胸に手を当て、優は自身の鼓動が穏やかな脈を刻んでいるのを感じた。
まだ真実を知らされなかった事に安堵している自分がいる。
いつかは知らなければ、認めなければならない事なのに。
「………」
その時、ポケットの中から着信音が聞こえてきて優は携帯を取り出した。
ディスプレイに表示されている名前に慌てて通話ボタンを押す。
「…っもしもし?」
『優?』
通話口から聞こえてきた声は紛れもなくシンのもので、向こうから見える筈もないのに優は何度も頷いた。
「どうしたの、シン。任務は終わったの?」
『大体な。さっき預言者クレールにも大まかに報告したんだ。今日付けでロシアを出るから、多分そっちに着くまで一週間ぐらいかかると思う』
「わかった。メイファにも伝えておくね」
『頼むな。…お前、今どこにいるんだ?』
「今ね、ちょうど薔薇十字団の本部出たところ。ちょっと司祭イザヤに用があって」
『イザヤに?…ふうん』
「でもいなかったから結局無意味だったんだけどね。今からホテルに帰るとこだよ」
『…そっか。あんまり馬鹿な真似すんなよ』
どことなく棘のある言い方ではあったが、身を案じられている事実に優は笑った。
「分かってる。じゃあ、シンも気をつけて」
通話を終え、頬が緩んでいるのを感じながら優は携帯をカーディガンのポケットにつつき込んだ。
「ゆーう!」
その時、背後から聞こえてきた少女の声に優は振り返った。
「メイファ!?」
「よかった、やっといたアル!」
「な…なんで外にいんの!?」
「だって一人で待ってても暇だし、優が心配だったもん」
優の腰に両手を回し、メイファは頬を擦り寄せる。
微笑ましい彼女の行動に優は呆れる事も忘れて笑みをこぼした。
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