03
「異端審問官殿。現時点で我々の出した答えがこれだ。アナスタシア・ケレンスカヤを使者として遣わし、彼女の見解次第で今後の我々の方針を決定する」
「分かりました。枢機卿にもそう伝えておきます」
深々と一礼し、シンはアナスタシアと共に謁見の間から立ち去った。
◇◇◇
敷地の入り口に佇んでいる門兵に音楽院の証明書を見せ、優は一人で薔薇十字団内に進入した。
メイファは、優がフランスに着いた日以来放置していたホテルに預けてきた。
「うちも行く」と言って駄々をこねたメイファだったが、優は「すぐ帰ってくるから」と言って、こうやって半ば無理矢理出てきたのだ。
優が何であろうと関係ない、と言ってくれたメイファの言葉は本当に嬉しかった。
(でも…やっぱり最初は一人で確かめたいんだよ)
どうしてもここだけは譲れない。
優は受付でイザヤの居場所を尋ねたが、受付にいた修道女は申し訳なさげに首を横に振った。
どうやら居場所を知らないらしい。
「司祭イザヤがどうかしましたか?」
その時、背後から透き通った女性の声が聞こえてきて優は振り返った。
声をかけてきたらしいその修道女は優雅な動作で歩み寄ってくる。
「まぁ…シスター・イヴ!」
優の後ろで受付の女性が声を上げる。
答えるようにイヴと呼ばれた女性は微笑み、続いて優に笑いかけた。
「すみません、話が聞こえたものなので…。司祭イザヤをお捜しですか?」
「はい」
そこで何故か女性は声を潜めると、こそこそと優の耳元で囁いた。
「…ごめんなさい、まだ執務時間なんだけどちょっと見当たらないの。彼、たまにこうやっていなくなるのよね」
「……そうなんですか」
サボりかよ…と、優は表情には出したものの声には出さなかった。
イヴは離れると、何事もなかったかのような顔で微笑んで尋ねてきた。
「火急の用件なんですか?」
「火急と言えば火急なんですけど…まぁ、大丈夫です」
「…あの、違っていたらごめんなさい。あなたもしかして…優さんですか?」
優は目を瞬かせた。
「どうして知ってるんですか?」
「まあ…!やっぱりあなたが?シンから話は伺ってます。サン・ジェルマン音楽院ですってね、凄いわ」
「シンから?」
イヴは微笑んだ。
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