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02



(……あれっ?)


入っていない。
記憶を探り、優は青ざめた。


(あ…やばい。ホテルに預けたバッグの中……)


一気に冷や汗が噴出する。
相変わらず表情を感じさせない異端審問官達を、優は恐る恐る仰ぎ見た。


「…すみません。その、ホテルのバッグの中に忘れてきたみたいです……」

「………」


異端審問官は暫し押し黙り、やがて優に話し掛けた人物が傍らの人物に何か指示を出した。
頷くや否やその人物は剣を鞘走らせ、優はぎょっとした。


「この国の法律だ。アジアンの場合、滞在許可証を持ち歩かない者は、強制的に連行し、反省具合により刑罰を決定する」

「はっ!?」


あんまりな法律に思わず声を上げる。


「ちょ…ちょっと、なによそれっ、そんな無茶苦茶な法律聞いた事ない!」

「法律は法律だ」

「あたしだってわざとじゃないのに!って言うか、そういう万が一の事例に対して普通何か措置を設けておくもんじゃないの!?」

「…反省の色無し」


その言葉を皮切りに傍らの異端審問官は問答無用で優に斬り掛かってきた。


「きゃあっ!!」


間一髪のところでそれを回避するが、それは反射的なものであった。
もう一度避ける自信は優にはない。

周囲にいた人々は、関わり合いにならぬよう遠巻きで事の成り行きを見守り、誰一人として優を助けようとはしなかった。
だが、今の優にはそんな彼らを恨む余裕すらもない。


「あたし、ちゃんと滞在許可取ったよ!ホテルに行ったらビザでも何でも見せるから!」

「郷に入っては郷に従え。何度も言わせるな」


他の異端審問官が近付く度に、優も同じ歩数だけ後退った。


「あたし…っ二度とこんな国に来ない!」


叫び、優は砂をひん掴むや否や、異端審問官目掛けて撒き散らした。
彼らが狼狽したその一瞬の隙を見逃さず、優は踵を返すと一目散にホテルの方角へと駆けていった。


「…司祭シン、お怪我は──」

「ない」


彼らを取り巻くように発生した人為的な風の中心で、シンと呼ばれたリーダー格の若者は優が走り去っていった方角を仮面の奥から見据えた。


「いかが致しましょう」

「追え」


たったそれだけだが、十分な答えだ。



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