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01



ロシア帝国に滞在してから、早一週間が経過した。


あれ以来、皇帝ニコライからの返事はない。
予定以上の長引きに、シンはベッドに仰向けに寝転がったまま、奥歯を噛み締めた。


「…一体何やってんだ、あの皇帝」


誰もいないのをいいことに吐き捨てる。
シンとしても条約を締結してもらわなければ困るのだが、そろそろ我慢も限界に来ていた。

手持ち無沙汰に傍らに転がっている携帯電話を手に取る。
メール画面を開き、幾らか遡ったところにある一通の受信メールを開いた。


(優……)


それは、ロシア帝国に任務で行ってくると打ったメールに、律儀に返信してくれた優からのメールだった。
労いの言葉が派手な絵文字と共に打たれている。

二人共無事なんだろうか──そんな事を考えている自分に気付き、シンは慌ててその考えを打ち消した。

彼らは異端である科学技術推進国の出身なのだから、妙な情を抱いてはいけない。
それは異端審問官の立場として当然の事なのだ。

その時、扉が軽くノックされて、シンは仮面をつけて身なりを整えると返事をした。

入ってきたのは帝国の軍人である。
彼は敬礼するとシンに向かって声を張った。


「皇帝陛下より召喚の要請であります。お仕度が整い次第、謁見の間へとお越し下さいませ」

「わかりました」


やっとか…と内心溜め息をつくが、そんな事はおくびにも出さず、シンは謁見の間へと向かった。

謁見の間へと続く、身の丈以上の高さの誇る荘厳な扉の前に辿り着くと、扉の両脇に控えていた軍人はシンに敬礼をして、両側から扉の取っ手に手をかけた。
観音開きの扉がゆっくりと開く。


「おお。よくぞ参られた、異端審問官殿」


玉座に腰掛けたニコライの声は広い空間によく響き渡った。
両脇には以前いた筈の側近は誰もおらず、その代わりに見た事もない女性が一人控えていて、それを見てシンは仮面の奥の瞳を不可解そうに眇めさせつつ御前で跪いた。


「参上つかまりました、皇帝陛下」

「長い間待たせてすまなかったのう。さて、此度の条約の件なのだが…」


ニコライはちらりと女性に目線を送る。
彼女は頷くと、洗練された仕草でシンの前に歩み寄った。

立ち上がるようニコライより指示され従う。
目の前にいた女性は、姿勢をぴんと正すと敬礼をして見せた。


「初めまして、異端審問官殿。アナスタシア・ケレンスカヤと申します」


そう言って微笑んだアナスタシアと名乗った女性は、年の頃はシンよりも幾らか上に感じられた。

シンの輝くばかりの金髪とは違い、彼女の金糸の髪はプラチナブロンドだ。
ロシア帝国の濃緑色の軍服に細い身を包み、腰には展開式の槍が収められていた。


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あきゅろす。
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