03
「なにを…───」
どくん。
心臓の音が妙にリアルに、そして大きく聞こえた。
「なにを、などとは愚問ではないでしょうか」
どくん どくん。
「もしかしたらあなたはまだ完全に覚醒されていないのかもしれない。でもそれも最早時間の問題の筈」
一歩イザヤが近付き、優は一歩後退した。
心臓の音がうるさい。
真っ直ぐに自分を見据えてくる碧眼から優は目を逸らせなかった。
「あなたは愚かではない。薄々気付いておられるのでしょう?忘却したふりはもうお止め下さい──」
イザヤは更に近付き、優は壁際まで追い詰められてもう後退は出来なかった。
怯えの混じった瞳の優の前で跪くと、イザヤはそっとその手を取って軽く甲に口付けた。
(………やめて…──)
「──魂が悲鳴を上げる前に」
(……やめて…──)
「──人類の悪逆を忘却する前に」
(…やめて…──)
聞きたくない。
駄目だ。
やめてやめてやめて。
これ以上聞いたら───
イザヤの唇がそっと動いた。
「──…やめて!!」
渾身の力でイザヤを突き飛ばし、脇目も振らず優は扉の外へと飛び出した。
「優!?」
只ならぬ様子にメイファは慌てて身を翻したが、既に優の姿は長い廊下のどこにもなかった。
「逃げられてしまいましたか」
「…イザヤ!!優になにしたヨ!」
振り返ったメイファに、イザヤは服をはたくと相変わらずの微笑みを浮かべた。
「真実を伝えようとしただけです」
「真実?」
「ええ、真実です。彼女はそれに薄々感付き始めている。彼女の魂に刻まれた記憶が彼女に伝え始めているようです」
「なに、それ……わけわかんないヨ…」
「忘れられては困りますから」
呆然と見上げてくるメイファに、イザヤは微笑みを深めた。
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