02 「ご機嫌よう。優、メイファ」 「ご機嫌ようじゃないネ!うちら暇でどうにかなりそうアル!イザヤからあのクレールっていう人になんとか言ってほしいヨ!」 「ご安心を。今日はその事でこうして参ったのです、客人を解放しろとの要請が下ったので」 「本当アルか?」 イザヤは頷き、後ろで口元に手を当てて佇んでいる優に視線を移した。 「…優。シンは───」 優はぴくりと反応した。 伺うように瞳が動き、イザヤを捉える。 イザヤは微笑んだ。 「まだロシアより戻ってきていませんよ」 「………そう」 そう言い、優はしっかりと顔を上げると、真正面からイザヤの碧眼を見据え、そして一言一言はっきりとした声で告げた。 「では、これで失礼します。今までお世話になりました」 メイファの手をぐいっと引き、優はイザヤの脇を通り過ぎようとしたが、それは彼の発した言葉によって遮られた。 「──まだ、誰も“解放する”とは言っていませんよ?」 その言葉に優の顔色がさっと変わった。 瞬間、背後から物凄い力で両手を掴まれたかと思うと、優の体は一気に引き上げられた。 「!?」 驚いて振り返ると、そこにはあの異端審問官の男達の姿。 「なにするアルかー!!」 ぎゃあぎゃあと喚きながら、メイファは地についていない足をばたつかせる。 「落ち着いて下さい。別にとって食おうというわけではないんですから」 「だったら放してよ!!」 睨みつけてきた優にもイザヤは気圧される事なく微笑むと、背後の男達に命令を送った。 彼らが頷いた気配がしたかと思うと、丁寧な扱いで毛足の長い絨毯の上に下ろされた。 「司祭イザヤ、我々は──」 「退出を。預言者クレールには私から報告しておきますから」 「御心のままに」 異端審問官の気配が完全に遠ざかったのを見計らい、イザヤは口を開いた。 「お心の内をお聞かせ願いますか」 名前を呼ばれたわけでもないのに、優はそれが自分に向けて発せられたものだと悟った。 「心の内…?」 「以前、図書館で会った時に尋ねた事です。──思い出しましたか?」 その言葉に優の体は硬直した。 背中を嫌な汗が伝う。 [*前へ][次へ#] [戻る] |