01
「──もう無理!!」
二つ並んだベッドの上で優は金切り声を迸らせた。
この客間に監禁状態になってからゆうに一週間が経過している。
最初はそれこそ優もメイファもごろごろして過ごしていたが、日にちが経過するにつれてやる事もなく、次第に優は苛々し始めていた。
なんとか隙を伺って抜け出そうとも試みたが、それは無茶な話だった。
何度も扉を開けてみたが、あの異端審問官の男達は四六時中扉の前で待機しているようだし、一度メイファと二人で扉を開け放って全速力で廊下を駆け抜けたが、すぐに捕まって「客人を危険な目に合わせるわけにはいきません」と有無を言わさぬ口調で言われて、部屋に入れられて外から鍵を掛けられた。
ならば窓からはどうかと思ったが、この高さから飛び降りるのは自殺行為であってやむを得ず断念。
バスルームもあって、食事は異端審問官が定期的に運んでくれる。
あまつさえ食後のデザートやおやつ等も配膳され、不自由は一切無いがこの環境は優は大嫌いだった。
(そうだよ、嫌いなんだよ…)
この閉鎖的な空間はなんとなく実家を思い起こさせる。
──あの母親のいる家を。
「………」
優は無理矢理思考を遮断し、振り返った。
「ねえメイファ。起きてる?」
「寝てるヨ〜…」
「こら」
メイファの寝ているベッドに移動すると、メイファは気だるそうに振り返ってきた。
「ねえ、なんとかしてここから出ようよ。シンからも連絡こないし。大体客人ってなにって感じじゃない?あたし達別に好きで来たわけも招かれたわけでもないのに、そっちが勝手に都合のいい事言って閉じ込めてるだけでしょ」
「でもうちら二人で出たって危険な事は確かヨ?」
「あたしは一応サン・ジェルマン音楽院の者だよ?それ以前に、あたしシンと会う前は普通に一人で街中ぶらついてたもん」
そこまで言って、ふと優は表情を曇らせた。
「……それに、あたしあんまのんびりしていられないの。そろそろ帰国しなきゃいけないのに」
「えっ、優ジャパンに帰っちゃうアルか?」
振り向いたメイファに優は天井を仰いだまま頷いた。
「研修を兼ねての短期留学だからね。って言ってもこっちで全然勉強してないけど」
その時、扉の奥で話し声が聞こえたかと思うと、扉が開いて黒衣の青年が進入してきた。
優は跳ね起きる。
「シン!?」
だが、それは優が期待していた人物ではなかった。
仮面を取り、下から現われた穏やかな微笑みは、全く別の人物であった。
「…あ───…」
「イザヤアル!」
ベッドから飛び起きたメイファにイザヤは柔らかく微笑んだ。
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