04
「優起きるの遅いヨ、朝ご飯すっかり冷めちゃったネ!」
「……ごめん…」
「もっと早く起きた方がいいと思うヨ。早起きは三文の得ってロン爺いっつも言ってたアル!」
「…ん、気をつける」
ベッドから起き上がり、優はハンガーに掛けておいた制服に手を伸ばす。
思考を切り替えるように口を開いた。
「メイファ、あたしが起きるまで暇じゃなかった?どこか行ってたの?」
「んーとね、施設内ぶらつこうとしたんだけどやめたアル」
「?なんで──」
着替えを終えて扉を開いた優は、扉の両脇に立っていた二人の異端審問官の男の姿を見て固まった。
仮面の奥で優を見下ろすように睥睨してくる瞳は冷たく、優は引き攣った愛想笑いを浮かべるとゆっくりと扉を閉じて室内に退いた。
「ね?」
ベッドの縁に座り、メイファはそう言う。
「………ちょっと待って。なんであんなのが部屋の前にいるの」
「無理矢理にでも出ようと思ったんだけど無理だったヨ。『客人を危険な目に合わせるわけにはいかないから』って言われて強制的に戻されちゃったアル」
「あたし達がアジアンだから?」
「そうだと思うヨ」
「そう言えばシンは?」
「朝優の携帯鳴ってたヨ」
メイファに言われ、傍らに置いていた携帯を取って優はメールを開いた。
「シンアルか?」
頷き、優は携帯をメイファに渡した。
液晶画面の中にシンからメッセージが入っている。
それは、今日付けで任務が言い渡されてロシアに向かわなければならない、と言う事だった。
詳しい事は書いていないが、戻るのに最低でも2週間は要するという事で、それまで気を抜かないようにと最後に付け加えられている。
「ロシア帝国…」
ロシアは西欧諸国の中でも、飛び抜けた軍事力を誇る世界最大の帝国であると優は聞いていた。
そんなロシアは、「民族浄化」の法案が西欧諸国の議会で提出された時、最後まで反対の意思を示し、法案が可決されて以来、ロシアは西欧諸国と袂を別ったままになっている。
不仲であるロシアに異端審問官が派遣されるのは何を意味するのか──それは優の想像の範疇を超えていたので、考える事を放棄してベッドに倒れ込んだ。
「ロシアか。遠いなあ」
「うちら、ここで大人しくしてた方がいいよネ?」
「そうだね。暫く様子を見てみよっか」
携帯を放り投げ、優は反動を付けて体を起こすとロシアがあるであろう方角の空を眺めた。
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