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「わぁ……っ!」


イングランド郊外の国際空港に降り立ち、それから旅客船を経由してフランスの首都、パリに到着した優は疲労を感じながらも、その街並みを仰いで呆然とした。
きれいに舗装された石畳の街道の脇には様々なブティックが立ち並び、あちこちにはみずみずしいばかりの緑がある。
馴れない長旅の疲れも吹っ飛んでしまう程の美しさだ。


(凄い、凄いっ!あれって凱旋門だよね、って事はここってシャンゼリゼ通りだよね!)


雑誌の特集などでしか見た事のない花の都の景観に、優の心は踊るばかりだ。
荷物を宿泊先のホテルに預け、優はパリの街を散策する事に決めた。

旧世紀の核戦争の後、真っ先に再建したのはこの街らしい。
パリは今や世界でも有数の大都市だ。

物珍しそうに歩き、優は休憩がてら美しく整備の施された公園の噴水の脇に腰を下ろした。
その時、ポケットの中から聞き覚えのあるメロディーが流れ、優は携帯電話を取り出した。


(…メール?誰──)


新着メール欄に母の文字。


「……」


迷う事なく消去ボタンを押し、優は携帯をポケットの中に戻した。
一気に気分が盛り下がる。
溜め息をついた優だったが、ふと周囲の人々の間に妙な緊張が漂ったのを感じ、何事かと顔を上げた。

公園の入り口に数人の人間がいる。
否、それだけであったら特に気にとめるものでもないだろう。
ただ、彼らは皆一様にして黒の外套を身に纏い、翻る裾には白い十字架の模様が幾つもあしらわれていた。
そんな彼らは、真っ直ぐに優のもとへと近付いてきている。


「薔薇十字団の異端審問官だ…」


誰かがそう呟くのが聞こえた。
そこから感じ取れるのは、尊敬と敬愛の念だ。

彼らは優の前で立ち止まり、その顔を伺おうとして優はぎょっとした。
その理由は彼ら全員が仮面をしていたからだ。
顔全体ではなく目元だけを隠すような陶器のように真っ白いそれは、優に異質さを感じさせた。

やがてその中の一人が口をきいた。
他の異端審問官とは違い、目尻に少しの金細工が施されている。


「国籍は?」


淡々としつつも高圧的な物言いに、優は眉を寄せる。


「ジャパニーズですけど……」

「滞在許可証を提示しろ」


どうやら疑われているらしい。
優は渋々鞄を開け、許可証を探し──そして固まった。



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