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03



「………」


穏やかに陽光の射し込む室内。
ぼんやりと周囲を見回す。
間違いなく、薔薇十字団の一室だ。


(…ゆ、め………?)


上体を起こす。
思考は落ち着いていたつもりだったが、全身には汗を掻いている。
汗で額に貼り付く前髪を鬱陶しげに払いのけた。
心臓の音がうるさい。
胸を抑えると信じられない程早鐘を打っていた。
なんとか落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
暫くそうしていると粗方落ち着いていくのを感じ、優は息をついた。


(夢……?ううん、違う───)


鮮明すぎる程だった。
あの淀んだ空気も、血を吸った地面の色も、炎の熱さも。


掌を見る。
生み出された炎。
まだ掌が熱いような気がして、優はぎゅっと掌を握り締めた。
握った拳が微かに震えている。



業火。
神の炎。
あれはきっと──



「…………女神……」



何故──自問する。何故。どうして。
握った掌が熱い。怖い。
自分の知らないところで何かが起こっている。
やっぱり何かを忘れている。
思い出せと誰かが脳内で囁く。
唇を噛んだ。違う。私は違う。気付きたくない。何も知らない。


「…………う、」


底知れぬ恐怖が這い上がってくる。
心臓の音が近くに、そして妙にリアルに聞こえる。
逃げるように、優は布団の中で体を縮ませてシーツを握り締めた。
と──


「ゆーう!」


頭上からメイファの声がしたかと思うと、どすん、と体の上に重みが落ちてきた。


「……メイファ!?」

「優、もう朝ヨー!起ーきーてー!」


暴れるが、メイファは布団ごとしっかりと優に抱き付いているので無理である。


「わ、分かった!起きるからメイファ、どいて!」

「了解ヨー!」


やっとの思いで上体を起こす優を覗き込みながら、メイファは唇を尖らした。



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