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01




「アイヤー!豪華な部屋ヨー、トイレもお風呂もついてるアル!」



無邪気な声を上げて部屋を走り回るメイファの姿に笑い、優は広いベッドに身を沈めた。


(…疲れた………)


あれから薔薇十字団に戻ってきた優は、割り当てられた部屋へとすぐに帰った。
シンはクレールのもとに報告に向かったので、薔薇十字団の正面ホールで別れてそれっきりである。

疲れがどっと押し寄せ、瞼が重くなる。
眠気に抗いつつ、優は両掌を天井に向けた。

両拳を合わせ、精神を研ぎ澄ます。
一瞬後、炎に似た光と共に細い刀身が露になった。


「…頭、ごちゃごちゃする……」


一度に様々な事が起きて追い付かなかった思考をフルに回転させる。

混乱する寸前の思考回路の中で、唯一理解出来る事。
それは──


(あたしは“あたし”じゃない)


初めて異変を感じたのはシンに出会った後──チャイナで目覚めた時だった。

それからまだたったの2週間程度しか経過していないけれど、何度か胸中をもやもやとしたものが支配した。

剣を軽く振り回す。


(あたしは…──)


手に吸い付くような柄の感覚。


(あたしは…──?)


一旦は深くまで落ちかけた思考回路であったが、次の瞬間、顔の上に落ちてきた水気を含んだタオルによって優の思考も視界も遮断された。


「………メイファ……」

「優このまま寝ちゃ駄目ヨ、せめてシャワーだけでも浴びるヨロシ!」


メイファの声に、優はずるりとタオルをどかして上体を起こした。

絞った形跡の見られない濡れタオルからは未だ雫が垂れていて、優の顔も制服の襟もあっという間に湿ってしまっている。


「……メイファさーん…なにするんですかー」

「眠気覚まし。そのまま寝たら大変ヨ。優いっつも言ってたネ、『化粧落とさずに寝たら肌が死ぬ』って」


怒気を孕んだ声色の優を前にしてもメイファは少しも怯まない。


「ほらほら、優お風呂入るアル!気持ちよさそうヨ、疲れも吹っ飛ぶネ!」

「…はいはい。メイファ、あたしお風呂上がったら先寝とくからね」

「駄目ヨ、枕投げして遊ぶアル!」

「ええー修学旅行かよ」


枕を抱き締めているメイファに背を向けてカーディガンやスカーフを外し、優はバスルームに向かっていった。




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あきゅろす。
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