05
「おい、帰れって言ったのが聞こえ──」
「あんた、異端審問官?」
シンを取り巻く明らか不機嫌なオーラに圧せられる事なく、そーかそーか、と少女はしゃがみこんでくすくすと笑った。
「まっ、仮面してるし、その格好だって明らかにそれだもんね」
笑みを含んだ目つきのまま、少女は視線を巡らす。
メイファを見やり、シンを見やり──そして優を見た時、少女の瞳に面白がるような色が浮かんだ。
「ねぇ、あんた」
「…あ、あたし?」
「そっ。あーんた」
少女は立ち上がって、無邪気ではあるが純粋とは言い難い笑顔を浮かべた。
──まーだ思い出さないんだってね。
「!?」
すぐ耳元で囁かれたような感覚であったが、少女は未だ台座の上にいる。
困惑の色をありありと浮かべている優を見て、少女は面白がるような笑みを深めた。
「な…、」
「優?」
メイファの声がしても優は振り返れない。
(なんで……イザヤと同じ事を…?)
背中に冷水を吹っ掛けられたような感覚がした。
色を無くした優の前で少女はくるりと回転する。
「早く思い出さないと可哀想じゃない?」
「可哀想、って…誰が…──」
少女は軽い身のこなしで台座から飛び降りた。
ゆっくりと顔が上げられ、大きな紫色の瞳が動く。
「知ってるくせに」
「…待てよ、おい。一体何の話なんだ、優?」
シンに問い掛けられても優は何も答えられなかった。
優自身何の事なのか分からない。
ただ、自身の奥底で頻りに「何者」かが「何か」を伝えようとしていた。
(なに……これ…)
寒くもないのに体が震えてきて、優は強く唇を噛み締めると耐えるように己の腕に爪をたてた。
「まっ、あたし別にいーんだけど。もう用事済んだし、あんた達の言いつけ通り帰ったげるよ」
そう言い、少女は見せびらかすように半透明の物質を取り出した。
その瞬間、シンの顔色が激変する。
「──おい!どうしてお前がそれを持ってるんだ!」
火がついたように叫んだシンに、傍らにいたメイファが短い悲鳴を上げる。
少女は一瞬呆気に取られた顔をしたが、次の瞬間にはあからさまに表情を歪めた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!