03
「だってそうでしょ?シンは異端審問官で、本来なら誰よりもあたし達を弾圧すべき立場にある人じゃない。だけど、こうして気遣ってくれてるもの。最初とは完全に別人だね」
「いや、それは単に…──」
お前がサン・ジェルマン音楽院の者だから──という言葉をシンは呑み込んだ。
それは嬉しそうな優の姿もあったが、それだけでは割り切れない何かが胸中を渦巻いたからだ。
「──…とにかく」
と言って、シンは無理矢理思考を切り替えた。
「俺も預言者クレールの動向には気を配っておくから。なにかあったら連絡しろよ。じゃあな」
「あ……、待って待って!」
客間の前まで二人を送り届け、踵を返して立ち去ろうとしたシンの服を優は掴む。
結果シンは派手に前につんのめる事となり、怒りの形相で優を振り返った。
「…なんだよ、一体!」
「あたし達もシンの任務についていっていい?」
「は?」
目を見開いたシンの反応は無理もない。
「関係ないだろ。なんでついてくんだよ」
「だってここにいたって危険って言ったのはシンだよ。だったら、まだシンと一緒にいた方が安全だと思うんだ」
「バカじゃねぇの。状況によっちゃ命に関わるんだぞ」
「あたしだって一応神器持ってる。自分の身は自分で守るから」
シンは暫く優の決意を見定めるように彼女の栗色の瞳を見つめた。
優はついに目を逸らさず、根負けしたようにシンは盛大に溜め息をつくと首を振った。
「……お前はよくてもメイファはどうするんだ」
「心配ご無用ネ!うち護身術として少林拳習ってるアル!」
「…そうかよ」
盛大な溜め息と共に呟き、それきりシンはもう何も言わなかった。
◇◇◇
「ここ?」
パリを出てから数日。
夕闇の中にそびえ立つ瓦解しかけた神殿を見上げて尋ねた優に、シンは頷いた。
「旧世紀の遺物らしいけど俺はよく知らない。けど、ここから何かしらの反応があるみたいなんだ。──お前も感じてるんだろ?」
「何となくは」
微弱ではあるが先程から何となく不可解な圧力を感じている。
ともすればそのまま自身の力を引き出されそうな感覚に、優は呑まれまいと自分の頬を叩いた。
「よしっ。行こう」
「賊がいても殺しは御法度だからな」
「分かってるよ」
シンが神器を発現させたのに倣い、優も神器を発現させた。
その時、傍らでメイファが小さく何かを呟いたのが聞こえ、優は振り返っていた。
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