05(終)
「司祭イザヤ、司祭シン。我々はこの者達を連れて一足先に本部へと帰還します」
「ご苦労様です」
「それと、預言者クレールより司祭シンに言伝を預かっております。『本部に戻り次第、ただちに枢機卿へと赴くように。客人二人をお連れして』だそうですので」
「あたし達も?」
不思議そうな優に異端審問官は頷いた。
「はい。では、私は確かに伝えましたのでこれで」
彼はもう一度頭を垂れると、外で待機している馬車に乗り込んでいった。
「……クレール様がねえ。一体何の用事なんでしょうか」
「さあな。やっとフランスに帰って来たってのにハードなもんだ、ったく…」
「まあそう嘆かない、嘆かない。さて、私はこれで失礼しますね。──では、また後で」
恭しく頭を垂れ、イザヤは踵を返すと瓦解した扉をくぐって外に出て行き、すぐにその後ろ姿は見えなくなっていった。
「何であたし達まで呼び出されなきゃいけないの?」
「うちら……殺されちゃったりするアルか?」
「フランスは宗教自治区だ。無益な殺生は禁じられてる」
「うう……どっちにしろなんだか怖いなぁ…」
嘆きつつ、優は神器を分離させる。
柄を掴んでいた筈の拳はすぐに虚空を掴む形となっていた。
その一連の作業を見てシンは思わず口を開いた。
「──…お前、」
「なに?」
「いや、随分と上達早いな。さっき神器を発現させる時も思ったんだけど…」
「だって簡単だよ。結構自由自在にいけるんだけど…あたしなんか間違ってるのかな?」
優はそう言って、すぐに神器を発現させてみせる。
そのあまりに自然な流れにシンは目を眇めた。
決して簡単な筈がない。
それはこうして神器を所持しているシンが誰よりも理解していた。
発現も同調も分離も、やっと順調に行えるようになるのに、シンは実に数ヶ月の時間を要したのだ。
それなのに、目の前のこの少女は僅か1、2回で今の自分にまで辿り着いている。
「………」
「シン?」
不安げな優の声にシンはハッとして顔を上げた。
「どうしたの?」
「…──いや。すぐ馬車を手配するから、二人は先に外に出ていてくれ」
無理矢理思を切り替え、シンは優とメイファを押し出すと、暫く己の掌を見下ろし、やがて力無く首を振って携帯を取り出した。
to be continued...
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