04
心臓に近い場所への衝撃は体を硬直させ、脈を狂わせて意識を喪失させる。
案の定男はすぐに動かなくなった。
「…野郎ぉ!異端審問官の癖しやがってアジアンの味方すんのかよ!神への冒涜じゃねえか!」
「治安を守るのも俺達の役目なんだよ」
ナイフを取り出したもう一人の男であったが、シンは顔色一つ変える事はない。
「大丈夫かな、シン……」
「──大丈夫ですよ」
事の経緯を遠くで見守っていた優は、すぐ近くでした聞き覚えのある声に顔を上げ、そして目を瞠らせた。
そこにいたのは仮面を装着したイザヤであったのだ。
「…あなた………」
「アイヤー、イザヤアル!」
「御機嫌よう、また会いましたね。優、メイファ」
仮面の奥からでもイザヤが笑っているのが優は分かった。
「枢機卿から指令が下されたので来てみましたが…あなた方がいらしてたんですね」
「…だって、あいつらアジアンだからって酷い事するアル」
「仕方のない事です」
イザヤの声に優は顔を上げた。
「これが西欧諸国の信条ですから。根付いた思想はそう簡単に取り除く事は出来ませんよ」
「……」
「愚かな話だと思いませんか?」
思わぬ問い掛けに優は仮面の奥にある青い瞳を見つめた。
目元に細工の施された仮面の奥で、彼の瞳は強い光を放っている。
「人間がそのような事で争っていても何も意味がない事に誰も気付かない。西欧諸国がなんだ、科学技術が異端だからどうした?馬鹿げた話だ、全ては女神の御心のままなのに」
「…あなた異端審問官でしょ?いいの、そんな事言って」
直球過ぎる質問であったが、イザヤは意に介した風も無い。
「私が考えている事はそんなちっぽけなものではありませんから」
「…あっそう」
「ああ。どうやら私の出る幕は無かったようですね」
イザヤの声に前を見ると、シンは動かなくなった男達の中心で剣を鞘に収めていた。
振り返ったシンは優の横にいる人物を見て目を瞠らせたようだった。
「イザヤ!」
「やりますね、シン。さすがクレール様が重宝されるだけの事はある」
「茶化すなよ。あんただってこれくらい余裕だろ」
「私はシンのように手加減は出来ませんから」
その時、瓦解しかけの扉から他の異端審問官が突入してきて、あっという間に倒れている男二人を拘束した。
その中の一人がシンとイザヤのもとに駆けてき、胸に手を当てて深く頭を垂れた。
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