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相変わらず胡散臭い男だと、シンは会う度思う事を胸中で呟いた。


報告のため、薔薇十字団内で中枢的役割を担う機関──枢機卿へと辿り着いたシンは、荘厳なステンドグラスを背負って立つローブ姿の男を仮面の奥から目を眇めさせて見た。

薔薇十字団内において、全ての最終決定権はここ枢機卿にある。

その中でも最高位につく者達は預言者の名が与えられ、シン達異端審問官にはここから指令が下される。
神を崇め、敬い、敬虔で模範的とも言える指導者の預言者達の中でも、シンはその男──クレールを信用した事はなかった。

胡散臭い。初めて対面した時からシンはそう直感していた。
あの張り付けたような笑顔もその中で光る鳶色の瞳もとにかく全てが胡散臭かった。

立場上逆らう事は出来ない故、下される命令には常に従っていたが、いつも頭の中で警鐘が鳴り響いていた。

だが、そんな事はおくびにも出さず、シンは膝を付くと祈りを捧げるように両手を合わせた。


「預言者クレール。貴方の御身の前で、私は女神に、そして我らが指導者に告白したい事があります」

「顔を上げよ、司祭シン」


低い声が頭上より届き、シンはゆっくりとそれに従った。
クレールは笑みを深めた。


「みなまで述べる必要はない。お前が帰還してきたのは全ては女神の思し召し、女神の御心のままだ。聖堂にて、全ての源流である女神に祈りなさい。再びお前が女神のために戦える事を、異端の技術がこの世より潰える事を、そして全世界の安寧を祈りなさい」

「御心のままに」


毎度毎度の儀式とも言えるやりとりを終えるとシンは立ち上がり、決してクレールの顔を見ようとはせず、踵を返して枢機卿を後にした。

扉が完全に閉じたのを確認し、溜めていた息をはく。


「………相変わらず、胡散臭え」

「──なにがです?」


前方からの聞き覚えのある声にシンは視線を送る。

階段の数段下にその声の主はいた。

異端審問官の制服に身を包んでいる人物は、先程優と遭遇したあの青年であるが、当然シンの知る由もない。


「イザヤ」


イザヤと呼ばれた青年は、人当りのよい笑顔を浮かべた。


「お元気そうでなによりです。随分と苦労をされたようで」

「ああ…訳の分からない事ばかり起きた…。さすがに疲れたよ…」

「それはそれは。シンは預言者クレールのもとに報告の帰りですか?」

「あんたも報告か?」

「まあそんなところですね」


イザヤは微笑む。


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あきゅろす。
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