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04



部屋を訪ねてきた時はまだ日は高かったのに、今はすっかり夜の帳に包まれてしまっている。
すぐそこの窓からはライトアップされたエッフェル塔が映し出され、余程長い時間転寝をしていたことを思い知らされた。

未だぼんやりする頭を抱えながら、優はランプに手を伸ばす。
ほんのりとオレンジ色の明かりが室内を照らし、シンの容態を確かめようと優はベッドを振り返り──愕然とした。


「……シン…?」


ベッドの中はもぬけの空だった。
寝乱れた布団はそのまま放置され、普段の几帳面な彼からは想像も出来ない。

バスルームからは何の音もせず、この部屋の中には優の気配しかない。




―――科学技術を嫌悪しているあいつの事だ。目覚めたら、何を仕出かすか分からねぇ。




甦ったエドガーの言葉に、優は廊下に飛び出した。


「シン!!」


だが飛び出した先には優の血相に驚いている利用客しかおらず、優が捜し求めている影はどこにもなかった。


「優?」


その時、聞き覚えのある声がして優は振り返った。
そこにいたのは回復したらしいアナスタシアだった。


「アナスタシア……っ」

「一体どうしましたの、そのような大声を上げて。そうそう、先程メイファが戻って──」

「アナスタシア!」


優はアナスタシアに縋り付いた。
青ざめて震えている優にアナスタシアの表情が微かに強張る。


「シンが……っいなくなった…」


アナスタシアは目を瞠らせた。
優の震えは収まらない。


「…どうしよう…あたし、エドガーから言われていたのに…っ!もしシンが…シンが…っ!」

「……優!」


アナスタシアは優の両肩を掴んだ。
そして、今にも泣き出しそうに揺れている優の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「…捜しましょう。こんなところでこんな事をしていても何も変わりません。必ず、誰か一人でもシンの姿を見ている方がいる筈。怪我の具合から、そう遠くには行けない筈ですわ」

「アナスタシア……」

「彼は敬虔な人です。彼の中に信仰が息づいているのなら、彼は絶対に道を踏み外さない。自ら命を絶つ事は彼らにとって重罪。シンは、絶対にそんな事をしません」

「………っ」

「私はエドガー達に知らせてきます。優、あなたはシンを捜しに。いい?あなたが取り乱しては駄目。冷静になって」


頷いた優に、アナスタシアも頷き返すと踵を返して走り去っていった。


残された優は早く脈打つ鼓動を感じながら、必死に冷静になって考えた。
だがやはり混乱している頭では何も考えつかない。
そしてそのことに優の頭は益々混乱してくる。


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