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「もー!一体何やってるネ、あの二人!」


足音荒く戻ってきたメイファに、ベッドで半身を起こして窓の外を眺めていたアナスタシアは振り返った。

優とエドガーが「薬を買ってくる」と言って出ていって、かれこれ早2時間は経っている。
怪我人であるアナスタシアの代わりにメイファは何度も廊下に出たり、ホテルのロビーまで行ったりしているが、その憤慨している様子から大した収穫は得られないままのようだ。


「やっぱりどこにもいないヨ!一体どこまで薬買いにいったアルか!」


メイファは、ぼすん、とベッドに腰を落とす。


「状況が状況ですし…遅いと不安ですわね」

「むぅ…心配しちゃうヨ」

「シンも出掛けてから随分経ちますわ。何かあったのかしら…」

「シンはただ図書館に調べに行っただけヨ。どうせ平気アル」


相変わらずつっけんどんな物言いに、アナスタシアは眉を顰めさせた。


「そんなにシンが憎いんですの?」

「……別に、憎いわけじゃないアル…」


立てた膝に顔を埋めて、メイファは呟いた。
思いがけず、それはすんなりとした答えだった。


「うちだって分かってるヨ、シンが悪いんじゃないって事。シンが『民族浄化』でみんなを殺したわけじゃないし、一回帰国しちゃった優を連れて帰ってきてくれたのもシンアル。でも…」


それきり押し黙ってしまったメイファを、アナスタシアはただ見つめる事しか出来なかった。

嘗て「優」を否定していたシンへの憤りが、メイファの内で燻っていた異端審問官に対する憎悪を刺激して膨れ上がり、そしてやり場のないその感情を「民族浄化」に最も近い立場にいるシンにぶつける事しか出来ないのだ。

方向性こそ違えど、結局行き着いたのが「民族浄化」なのは皮肉だった。


(民族浄化……)



──あの惨劇は、一体何のために引き起こされたのだろうか。



その時、不意にこんこんとノックされる音が響いてアナスタシアは顔を上げた。
それは、何故か窓の方から聞こえてきた。


窓の向こうから、黒いグローブに包まれた手がガラスを叩いている。
ここはホテルの中でも最上階に近い部屋で、こんな常識から考えられないような光景を為す事の出来る人物は、アナスタシアの中で一人しか思い当たらなかった。


「アダム!」


メイファが窓を開け放った先、そこにいたのは案の定アダムであった。


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