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01




「───!!」


物凄い恐怖に突き動かされ、アナスタシアは跳ね起きた。


「…っ!」


だがその際に肩口を物凄い激痛が走り、為す術も無くアナスタシアはベッドに逆戻りする形となった。
脈に合わせて伝導する痛みに眉を顰め、情け無いながらも身を縮めて低く唸る事しか出来ない。

じわりと、剥き出しの肌に巻かれた包帯に鮮血が滲んでいく。
その感覚に感化されるように徐々に甦る記憶に、腹の底が一気に冷えた。


(私は…──)


撃たれたのだ。

震える唇をぎゅっと噛み締める。


(何故…どうしてですの……)


脳裏をよぎるあの双眸の冷たさに震えが止まらない。

清潔なシーツを握り締めて耐えるように唇を噛み締めたその時、ドアノブが回され、視界の隅で白衣が翻った。


「よお。お目覚めかい」


入ってきたのはエドガーだった。
紙袋を抱えて、いつもの銜え煙草付きで。

ベッドから離れた位置にあるテーブルに乱雑に紙袋を置きながら、エドガーは口を開いた。


「弾、摘出したからな。化膿止めも塗ったし、あとは傷口が塞がるまで極力腕は動かさないようにしてくれ」

「あ、の…優達は……?」

「下の方で朝食取ってる。じきに帰ってくるだろうよ。そうだ、腹は減ってるか?」


その問い掛けに、アナスタシアは無言で首を振っただけだった。
その答えにエドガーも、そうか、と言っただけで、アナスタシアに背を向ける形で散らかしたままの医療器具を片付けている。

その背中を、じっとアナスタシアは見つめた。

最近になって気付いたのだが、エドガーはあまり多くを語らない。

それ以外にも彼は絶対人の深みに入ろうとしない。
それは決して一線を置かれているとかではなくて、彼は人が触れてほしくない部分を察するのが鋭いようなのだ。

優しい男だと、アナスタシアは思っていた。
だが、今はその態度がアナスタシアをひどく不安にさせた。


(どうして、何も問い詰めませんの?)


彼は、一体どこまで知ったのだろうか。

何も尋ねようとしないエドガーの背中が遠くて歯痒くて、アナスタシアは意を決したように生唾を飲み込んだ。


「……エドガー」

「んー?」


生返事を返すエドガーは振り返らない。
構う事なくアナスタシアは続けて口を開こうとしたが、いざそうなるとどうにも言葉が見付からなくて、アナスタシアはただ視線を泳がせるばかりだった。


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