02
「これぐらい許容範囲やろ。あんま細かい事気にするとハゲるで、おっさん」
「ははははは」
受け流すように笑ってはいるが、目は一つも笑っていないエドガーである。
「優達大丈夫かしら…」
街の遠くを見据えながら呟いたアナスタシアに、アダムは首を捻る。
「どうやろなぁ。ユダ、手加減っちゅーもんを知らんからなぁ」
「そのユダと言うのはどんな方ですの?」
その質問にアダムの目がアナスタシアを睥睨する。
普段の幼さからかけ離れた、何処か哀切さえ孕んだその眼差しは、だがすぐにいつもの無邪気な表情に掻き消された。
「自分で確かめたらええんとちゃう?あっちの方角捜したらすぐ見付かると思うで」
「?でも私達どんな容姿なのか分かりませんわよ?」
「会ったら分かるで」
その確信めいた物言いとアダムの瞳に再度宿った哀切に、アナスタシアは何を言ったらいいのか分からなかった。
グローブに包まれたアダムの手が伸びてくる。
耳にかかる髪が一房払われ、現れた紅いイヤリングに指が這わされた。
アダムの意図するところが理解出来ず、アナスタシアは為されるがまま。
困惑したようなアナスタシアの瞳を覗き込みながらアダムは笑った。
アダムの指先に弄ばれ、耳元でイヤリングが鳴く。
「吉と出るか凶と出るかは知らへんけどな」
その瞬間、物凄い突風が吹き荒れ、うるさくはためいていたカーテンが大人しくなったのと同時、微風を残してアダムの姿は忽然と消えていた。
「アダム行っちゃった…」
残念そうに呟きながらメイファが外を覗き込むのを尻目に、アナスタシアは軍服の上から胸を押さえた。
逸る鼓動を感じつつ、展開式の槍を取り出し、万が一に備えて入念に点検する。
「行くのか、アナスタシア?」
「行きますわ」
間髪入れず答えるアナスタシアに迷いは無い。
「優とシンが心配ですもの。それに、これからに備えて私達もユダの顔を知っておく必要がありますわ。それに…──」
不自然に言葉を区切り、アナスタシアはそれきり口を堅くつぐんでしまった。
何事も無かったかのように得物の点検を続ける今にも壊れそうな程張り詰めた横顔に、エドガーは目を眇めさせたが特に言及する事も無かった。
「OK。おいメイファ、俺達も仕度──」
「いいえ、エドガー。私一人で向かいますわ」
その言葉にさしものエドガーも目を白黒させ、メイファは大仰に振り返った。
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