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◇◇◇



喧騒に包まれる。


様々な国籍、服装の人間が集い、忙しなくジャパン国際空港のターミナルを往来している。
人々は皆、これから赴く異国に思いを馳せたり、家族や友人との別れを悲しんだりと実に様々だ。


そして、今しがた到着したばかりの少女も、その中の一人だった。


お気に入りのアクセサリーに着飾られたスクールバッグを片手に、歩を進めるたびに、緩やかに巻かれた茶色の髪が背中で踊る。
セーラー服の上にはベージュのカーディガンを羽織り、短いスカートから覗く足には黒のハイソックスとローファーを履いている。


(この辺の筈なんだけど──)


ターミナルの真ん中で、少女は周囲に目を配らせる。
その時だった。


「優」


呼ぶ声に、優と呼ばれた少女は振り返った。
ロビーに設けられている長椅子に、小奇麗な格好をした一人の女性が座っている。
母親である綾子だ。
だが、優は母に会ったのだというのに表情一つ変える事なく近付いていった。


「ほら、いらないものは貸しなさい。これが優のキャリーバッグ。滞在日分の下着と日用品、それから書類が入っているからあっちに着いたら確認しなさい」

「……」

「あと、その馬鹿みたいな格好はやめなさいと何度言わせれば気がすむの。あなたが今から行くパリのサン・ジェルマン音楽院は名門中の名門。音楽に携わる者なら、誰でも一度は思いを馳せる学校からあなたに声がかかったんだから、これは名誉な事よ。今回は視察を兼ねての短期留学だからいいけれど、本格的に滞在する事になったらそんな格好はさせませんからね」

「………」

「いい?絶対にいい成績を残して帰ってらっしゃい。この道で成功する以外、あなたの未来はないんだから。しっかりと肝に命じておきなさい」


あんまりな言い分であるが、優はもう慣れっこだった。
耳にたこが出来る程言われ続けられた優は、


(うざい)


胸中で呟いて、舌を打った。
この喧騒だ、気付かれるわけがない。


優は、幼い頃からピアノをやっている。


その頃、同じ幼稚園に子供を通わせている母親の間では、子供にピアノを習わせるのが一種のステイタスになっていて、優の母親も当然自分の娘にピアノを習わせた。

その頃から、優は次第に頭角を表し出す。
他の子よりも明らかに上達の早い娘を見て、綾子は優をより上達させるべく、様々な講師のもとを渡り歩いていった。


その頃だった。
優が、他の子達とは違う扱いを受け始めたのは。



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あきゅろす。
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