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07



(なんで、今更…?)


唐突に自分が今いる筈の“日常”から切り離された気がした。

慌てて携帯を閉じ、鞄の中に押し込む。

母に連絡していないとか、そういう事はもう頭に無かった。


ただ、逃げるように急いでその場を離れた。



◇◇◇



(どこにもいねぇじゃねぇか…)


日も暮れ、仕事帰りの人々で行き交う通りの真ん中でシンは大きく項垂れた。


(イヴ…この町って言ってたよな)


一瞬彼女に騙されたのかとも考えたが、あの顔はそんな事を企んでいる顔では無い。伊達に何年も彼女と教団にいたわけでは無いのだ。

さすがに疲労を感じ、脇のガードレールにもたれ掛かる。空はいよいよ暗くなっていき、夜の訪れが近い事を知らせた。


(ホテルぐらいすぐに見付かるよな…)


携帯を取り出し、とにかくもう一度優に電話をする。
だが、受話口の向こうからするのは無機質な呼び出し音ばかりで、無駄な料金がかかる前にシンは乱暴に電源ボタンを押して通話を終了した。


「………」


もう溜め息すら出ない。

その時だった。
突然目の前のビルからがやがやと足音が聞こえてきて、何人もの生徒が次々と出てきては、シンの目の前で帰路についていった。


「?」


不思議に思って視線を仰向ける。


(ああ、塾か…)


様々な制服を着た学生達が次々と降りてくる。一瞬、優も出てくるんじゃないかとも考えたが、何となくその線は薄いような気がして、シンは思考を切り替えた。


(…とにかくもう一度電話!)


立ち上がったシンの前で最後の生徒が通話しながら降りてくる。再び優に発信するも、今度は相手は通話中という事で、荒々しくシンは電源ボタンを押した。


「うん、今終わった。今から帰るから」


苛々を募らせるシンの耳に、声色明るく通話する少女の声が飛び込んでくる。


「夕飯めんどいからさ、コンビニ弁当とかでいい?…うん?うん、了解。じゃあそれ買って帰るわ」


耳に飛び込んでくる少女の会話を聞き流しながら、シンは再び発信を試みようとした。

まさに、その時だった。


「──じゃあね、優」


耳を疑った。

顔を上げたシンの前で少女は通話を終了すると、訝しげな表情のシンに気付く事なく、そのままスカートを翻して雑踏の中に消えていく。

その時、シンは気付いた。その少女の制服が優と同じ事に。

気付いたとき、シンは声を張っていた。


「──…おい!」


その存外響いた声に周りの人が振り返る。それは当然目の前の少女も例外では無く、彼女は大袈裟に肩を弾ませて振り返った。


「あ…あの、何か?」


声を掛けられたのが自分だと察し、少女──葵は恐る恐る口を開く。なるべく平静を保って、相手を無闇に刺激しないよう努めながら、シンは尋ねた。


「悪い、話が聞こえてきたんだ。優って…もしかして加護優か?」


見ず知らずの外国人から飛び出してきた名前に当然葵は大きく目を瞠らせた。その分かりやすい反応に、シンは頼み込む事にした。


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あきゅろす。
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