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目の前に広がる、濃緑色の軍服。


「…優!」


そこにいたのは、アナスタシアだった。ほっとしたような、安堵の色をまじえたアナスタシアの瞳が、手元のバッグに移される。みるみる浮かんでいく、不安そうな色。


「…優、それは…」

「…あたし、ジャパンに帰る」


その言葉に、驚く程アナスタシアの瞳は見開かれる。言葉を失った彼女から視線は外したまま、優は言い訳するように言葉を紡いだ。


「…親から帰国するように言われてたし、いい機会だから…」

「──優!あなたは本当にそれでいいの!?」


遮るように強く掴まれる両腕。アナスタシアの瞳に浮かぶ様々な色に優の胸は痛んだ。


「ごめんなさい…」


極力声が震えないように努めた故、優はそう答えるので精一杯だった。アナスタシアの脇をすり抜け、逃げるように廊下へ出る。


「…待って、優!」


ずっと後ろからアナスタシアの声が響いた。


「…必ず、戻ってきて下さい!私達、ずっと待っていますから!優の事、ずっと待っていますから!」


叫ぶアナスタシアの声を背に受けながら、ぎゅっとバッグの持ち手を握り締め、優は逃げるように街灯のちらつき始めているパリ市内へと飛び出していった。




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