03 (ムカつく) 心の中で呟き、舌を打つ。 そう──ムカつくのだ。 未だ整理のつかない頭も、掴めないままのこの状況も、そして、優にあんな顔をさせてしまった自分自身も。 よって、いつものエドガーの態度も今のシンにとっては苛々を募らせる要因に他ならない。 「随分辛気臭い顔してんな」 揶揄の含まれた声色に、シンは煩わしげに舌を打つ。 「うるせぇ。あんたには関係無いだろ」 「いつまで引き摺るつもりだ?あのシスターに何言われたか知らねぇが、お前の思いが真実なのには変わりねぇだろ」 「……」 知らず、シンは奥歯を噛み締めていた。余裕の含まれたエドガーの声色が何故かひどく耳障りだった。 「お前にとってあいつは女神なんだろ?だったらそれでいい。今まで通り、崇め、讃え、敬えよ。お前らの得意技だろ?」 「…」 うるせぇ、黙れよ。 声には出さずシンは心の中で呟いた。握る拳に力がこもる。 「今までだってずっとそうだったんだろ、何も躊躇う事なんてねぇ。なのに、女神の拠り所を見ただけで、どうして女神に対する想いが変わる?お前の信念が揺らぐ?お前は何を怖がっている」 「…怖がる?」 予想だにしなかった言葉に拳から力が抜ける。顔を上げた先、自分を見据えるエドガーの瞳は揺らがない。 ベッド脇の椅子を引き、エドガーは座った。 「何が怖い?このまま女神と優を同一の存在と思う事がか?女神を想う事が同時に優を想う事に繋がるからか?」 「…」 「答えろよ」 苦虫を噛み潰したような表情で押し黙ったシンに、エドガーは答えを促す。 「…あの時──」 戦慄くように息を吐き、シンは重苦しい静寂を打ち破った。 「…イヴは、俺に言ったんだ。俺が守りたいのは優じゃなくて女神だ、って」 「事実だろ」 「──だけど!」 弾かれたようにシンは顔を上げる。彼にしては珍しく動揺に揺れる碧眼に、エドガーは珍しいものでも見たかのように目を眇めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |