08(終)
「…シン?」
その時、すぐ近くから聞き慣れた少女の声が聞こえてきて、誘われるようにシンは眦を上げた。
優の栗色の瞳と視線がぶつかる。
「……ゆ───」
優、と名前を呼びかけたところで、イヴの言葉が甦ってきて、シンの声は喉の奥に引っ込んだ。
優。
加護優。
奇跡の紅。
創造神。
女神。
(女神…?)
この世で最も崇高な魂の持ち主でありながら、最弱の生命体。
拠り所となっている肉体──加護優。
肉体に宿る魂──女神。
(なんだ…?)
この目の前の生命体は──
「お前は──……」
シン。あの少女は──“何者”なの?
「お前──…一体、なんだ?」
優の表情が歪む。
悲痛とも悲哀とも取れないその表情に、シンは自分の発言にハッとして口元を押さえたが、もうどうにもならなかった。
降りる重い静寂。
交差した視線を先に逸らしたのは、優だった。不安げなアナスタシア達を振り返ったその姿は、明らかシンを視界に入れないようにしていた
「帰ろ、みんな。あたしもう疲れたし。そこらへんで適当にホテルとってもう寝ようよ」
「…ゆ───」
「賛成だ。とっとと帰って寝ちまおうぜー」
アナスタシアの声を遮るように、エドガーは彼女の肩に腕を回す。ぎょっとするアナスタシア。
「エドガー!?な…何をなさいますの!」
「スキンシップ、スキンシップ」
「…は、放して下さいませ!私はもう──!」
「安心しろ。俺はリネット一筋だから」
「そ、そういう事を心配してるんじゃありませんわ!その前に、さらりと惚気ないで下さいまし!それ以前に…ああもう!とにかく放して下さいませ!」
「つれないねぇ。おっさんを拒絶すんなよ。切なくて泣きそうだ」
「アイヤー!エドガーウザいヨ!」
大袈裟な仕草で後退るメイファや、慌てるアナスタシア、何を言われても飄々としているエドガーに、優は小さく笑った。
──ただ、自分の後ろにいるであろう若者から、意識はそらせないままに。
to be continued...
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