06(終) 視界を赤が彩る。 (やべ…っ) ぐらり、と目の前が揺らぐ。 白衣の袖を伝う生温かい鮮血。意識の遠くでルカの甲高い笑い声が響いた。 「きゃはははっ!そんな深く斬ったつもりなかったのに!あーあ、おっさんもう死んじゃうのー!?」 「エドガー!!」 ひゅん、と、ルカのがら空きの背中をアナスタシアが捉える。 一瞬の隙。だがそれは戦いで勝敗を決する。 「…!?」 「吹き飛びなさい!!」 轟、と空気が熱と共に膨張したその瞬間、ルカの体は軽々と吹き飛ばされた。瓦礫の山に飛ばされ、轟音と共に白煙が立ち込める。 「エドガー!」 駆け寄ったアナスタシアは、エドガーの腕を伝って地面に血溜まりを形成するそれに色を失った。その出血量は異常以外のなにものでもなかった。 「どうして、こんなに血が…」 「…」 無言のままエドガーは白衣の裾を引き千切り、それを手馴れた動作で血の溢れかえる傷口に巻きつけた。布はすぐに飽和状態になり、溢れ出る鮮血を滴らせるが、エドガーは意に介した風も無く、足を叱咤して立ち上がった。前方にそびえる、ルカがいるであろう瓦礫をしっかりと見つめながら。 「死んじゃいねぇんだろ?とっとと出てきな」 瞬間、答えるように瓦礫の山が吹き飛び、大小様々の破片が牙を剥く。 エドガーの前でアナスタシアは槍を縦に構え、一気に己の魔力を高めた。不可視の防護壁が二人を包み、触れる寸前で全ての破片が粉々に粉砕される。 「悪いな、アナスタシア」 「……戦えますの?」 「おう」 端的に答え、エドガーは標準を白煙の中に定めた。白い闇の向こうでゆらりと紫色の影が揺れる。 「エドガー。危なくなったら言って下さいませ。私が守りに向かいます」 「おーお。かっこいいな、アナスタシア。惚れそうだ」 「もう!こんな時に茶化さないで!」 それぞれの得物を構え、二人は白い闇の中で蠢く紫色の影から目を逸らさなかった。 to be continued... [*前へ] [戻る] |