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07


ずらりと連なった、円筒形の容器。

人一人が入るのに充分な大きさのそのカプセル群は、一定の間隔を置いて幾つも安置されている。

否、安置、と言うのには少々語弊がある。

表面のガラスはひび割れ、中には原形をとどめぬ程粉々に砕かれているものもある。カプセルから未だ溢れてくる溶液は床をしとどに濡らし、やはりカプセルから飛び出したコードはその溶液に浸され、ばちばちと火花を爆ぜさせている。

成している形は様々だがその数は実に5つ。

それらを見上げるイザヤの口元に笑みが浮かんだのと、背後から一つの足音が響いたのは、ほぼ同時だった。


「…これはこれは。預言者クレール」


振り返る事のないイザヤの隣で、その足音の主は立ち止まった。


「イザヤ。こんなところで何をしている」

「任務の途中に立ち寄ったまでですよ。素晴らしい…あれだけ派手に崩壊したのにここは大した被害をこうむっていない」

「女神の所在はどうなっている」


その問い掛けに、イザヤは鬱陶しげに碧眼を眇めてクレールを睥睨した。


「位置は把握しております。預言者クレールが懸念される事では御座いませんので」


その言葉にぐっと声を詰まらせたクレールに、イザヤはうっすらと微笑んだ。


「転生の技術を編み出したあなたには感服しますよ、預言者クレール。まぁ些か『民族浄化』は非道過ぎた感は否めませんが」

「…は、『民族浄化』の法案を最初に提唱したのは一体どこのどいつだったか…」


嘲笑さえ込められた物言いに不快がる事なく、イザヤの微笑みは深められた。


「預言者クレールには感謝しています。『民族浄化』で私の計画は順調に進行された。薔薇十字団からして見ても“科学技術に対する報復”と言う良い大義名分となったでしょう?」

「ふん、名目上はな」


その答えを背に聞きながらイザヤは、カプセル群の中で一番隅に安置されている、未だ無傷なままのカプセルに近付いた。

こぽこぽと、水泡が爆ぜる。

淡く緑色に色付いた溶液の中で短髪が揺れている。自身を抱き締めるように折り畳められた四肢からはコードが伸び、カプセルのすぐ横にある機器に繋がれ、計器が頼りなさげに点滅している。


「これが、最後の始祖……」

「──それで?覚醒はまだなのかしら?」


突然響いた第三者の声に、クレールは弾かれたように振り返ったが、イザヤは微動だにしなかった。

こつり、とした足音と共に現れたのはイヴだった。金色の髪を柔らかく払い、嫣然と微笑んでいる。


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あきゅろす。
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