05
◇◇◇
「やっと着いたぁー!」
ペキン郊外にある港に降り立つなり、優は両手を澄み渡った青空に向かって大きく突き出した。その姿を見ながらアナスタシアは笑う。
「あら、優。合衆国に着いた時と同じ事言っていますわ」
「だって何日も船の中にいたんだもん」
そんな二人の会話を聞きながら、メイファは肺に目一杯空気を吸い込んだ。
懐かしいチャイナの薫りがする。
その薫りに嫌でも慕情の念が沸き起こったが、メイファはそれを無理矢理抑え付けた。
今はそんな事を言っている場合では無い。アダムの言っていた事を実行せねば──そうしなければ、危険を顧みず旨を伝えてきた彼の思いを無下にする事になる。
決心し、メイファは前を行く背中に声をかけた。
「優ー」
いつもと同じように優は振り返る。
「ん?どうしたの、メイファ?あ、まさかロンさん達が恋しくなったかー?」
「もー、違うアル!」
揶揄の込められた言い方にメイファは頬を膨らます。
「あのね、今からフランス戻らないアルか?」
「フランス?」
あまりに唐突な発言に優は当然の如く眉を寄せる。
「まぁ…どうなさったのメイファ?」
純粋に疑問をぶつけてきたアナスタシアに、メイファは自身の心音を聞きながら、言葉を一つ一つ吟味して言った。
「…えっとネ、薔薇十字団崩壊跡地に何か手掛かりが残ってるかもしれないアル!もう一度、立ち寄った方がいいかもしれないヨ?」
「……」
優達が顔を見合わせる中、メイファの表情を不安がよぎる。その一瞬の変化から真意を悟り、優は「成る程」と心の中で呟いた。
「そうだね。戻ってみようか!」
思いっきりメイファの肩を抱き寄せ、優はシン達から見えない角度でメイファの耳元でそっと囁いた。
「──アダムに言われたんでしょ」
え、と思って顔を上げたメイファは、満面の笑みを浮かべている優ともろに視線がかち合った。
「あたし、昔から人の顔色伺うの得意なんだよね」
「ゆ──」
「船の中でも言ったでしょ。大丈夫」
小声で素早く伝え、優はあくまで自然な流れでメイファから離れた。
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