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08(終)



「うち、聞いたアル。あの化け物、消える時に『民族浄化』って言ったヨ」


メイファはちらりとシンを見る。


「それが何になるか分かんないけど、関係ある筈アル」

「………」

「…メイ──」

「あ、やっと見付けたー」


この場にそぐわぬ声と共に現れたのは優だった。その後ろでエドガーは相変わらず煙草を銜えたまま、ポケットに手を突っ込んで佇んでいる。


「こっちの方もあんま被害受けてないみたいだね、よかった。今どこらへん走ってるのかな、真っ暗だから全然分からないよね──…ってごめん、取り込み中だった?」

「ううん、何でもないヨー」



ぱっと笑顔を咲かせ、メイファはいつものように優の腰回りに飛び付いている。


「到着、ちょっと遅れそうだね」

「仕方ありませんわ。無事に辿り着けるだけ、有り難い事ですもの」


アナスタシアは立ち上がる。


「もう休みましょう。もしかしたらまた来るかもしれない。万が一に備えて、英気を養う必要がありますわ」

「おーし。じゃ、俺ももう一服して寝るか」

「もう部屋で吸うなよ」


みな散り散りになって部屋に帰っていく中に混じり、優もメイファと共に戻ろうとしたが、唐突にカーディガンのポケットの中で振動した携帯に体が硬直した。


「……」


振動はすぐに収まり、恐る恐る覗いたポケットの中でランプが規則的に明滅している。携帯を取り出し、受信画面を開いた優はそこに表示されている文字に頬を強張らせた。


「…優?」


振り返ったメイファの声にも反応が返せない。ややあって優は強張る喉に空気を通した。


「…ごめん、メイファ先戻ってて。あたしもすぐ行くから」

「?分かったヨ、早く来てネ」


大して不審がる事もなく手を振って駆けていったメイファの気配が完全に遠ざかったのを見計らい、優は画面を食い入るように再度見つめた。

文字の羅列に目を通し、思わず目を瞑る。体の底から沸々と得体の知れないもやもやが生じてきて、気付いた時、優は力任せに携帯を座席に向かって投げ付けていた。

小さな機械は柔らかな座席の上で一度バウンドし、そのまま板張りの床に激しい音と共に落下したが、優には無事を確認する気力も拾い上げる気も起きなかった。

崩れるように座席に座り痛む頭を押さえる。


「……っタイミング悪すぎ…」


開かれたままの受信画面に表示されている「母」の文字。そして、そこには帰国を要請する内容の文章が簡潔に書き込まれていた。ひどくなる頭痛に優は膝に額を押し付けた。


「…っ嫌に決まってんじゃん…」


優の苦悶の呟きは、誰の耳にも届く事なく、無人の車内に吸い込まれて消えていった。



to be continued...

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