03
「あいつの根底にある意識は誰も変えられない。だったら止めてやる。俺が死ぬ事になっても、絶対に」
「駄目」
「………はっ?」
優の視線は真っ直ぐにシンへと向けられている。その揺るぎない瞳に、シンの目は奪われた。
「死なせない」
白黒させているシンの碧眼を見つめながら、優は強く告げた。
「絶対に死なせないから」
「……ゆ、」
「誰も絶対に死なせない。いい?もし死にかけたりしたら──」
そう言って、優は自分よりも幾分か高いところにあるシンの頬に両手をかざした。それに思わずきょとんとするシンは、だが次に襲ってきた鋭い衝撃に肩を竦めた。
「痛っ!」
パン!と痛々しい音が響く。かざされた優の掌がシンの両頬を挟むように思いきり叩いたのだ。その手がゆっくりと離れると、シンの頬には情けなく優の手の型に赤く跡がついてしまっていた。
「な…なにすんだよ、お前!」
やっと状況が飲み込めたらしく吼えるシンに、臆する事なく優は笑った。
「あたしが叩き起こす。ね?」
分かった?と言わんばかりの笑みに、毒気を抜かれたのか、シンは盛大に不機嫌顔になると、窓辺に置いている腕に顎を乗せた。
「…お前も、」
「?」
「俺にだけ約束させんな。不公平だ、優も約束しろよ」
「あたし、死ぬ気なんてないよ」
「戦いを甘く見んな。いつどこで何が起きるか分からないのが戦いだ。お前がいくら女神だからって体は人間だ。死ぬ危険が無いわけじゃないんだぞ」
女神──シンの口からきくその単語は、他の誰に呼ばれるよりも優の心を軋ませた。
「……ねぇ、シン」
不安に速くなる鼓動を抑え、意を決し、優はずっと思っていた事を尋ねる事にした。
「正直に答えて。シンはあたしを“女神”として見てるの?」
「………」
シンは何も答えない。その無言がそれを肯定しているように思えて、胸が締め付けられるのを感じながら、優は彼の碧眼を真っ直ぐ見上げた。
見下ろしてくるシンの碧眼は揺れない。彼の中にある揺るぎない意志がありありと浮かんでいる瞳が、更に優を追い詰める。
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