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「──……う、──優」


ゆさゆさと肩を揺さぶられる感覚に、優の意識は現実に引き戻された。

すぐ目の前にあるアナスタシアの顔に、焦点を合わせるように数回目を瞬かす。ぐるりと周囲を見回して、優はやっと状況が飲み込めた。


「もうっ、こんなところで寝ると風邪引きますわよ」

「…ん。…爆睡してた…」


開けっ放しの窓の外を走り過ぎていく景色を見、優は身を乗り出した。

今優達は、フランスに向かっている途中の汽車の中にいる。さすがに二回目ともなると疲労感はそこまで感じず、優は夕闇に包まれ始めている広大な空を仰いだ。


「大丈夫?そんなに疲れてるアルか?」


二段になっている寝台の上部で寝そべったまま、メイファは顔を覗かせた。窓を閉め、優は先程座っていた椅子に戻り、あくびと共に大きく伸びをした。


「んー…どうだろ。とりあえず、まだちょっと眠い…」


目元を擦り、優は紅茶を飲んでいるアナスタシアの手元の地図を覗き込んだ。


「今どの辺り?」

「先程ポーランド国内に入りましたわ」

「じゃあ、もうちょっとで馬車に乗り換えだね。──ちょっとトイレ行ってくるね」


狭い通路を進み、優は角を曲がる。ふと、その先で翻った黒衣に、はたと優の足は止まった。

通路の窓に肘を預け、シンは外を眺めている。否、景色は見ていないのかもしれない。ひどく張り詰めた彼の横顔は優が初めてみるものだった。


「シン?」


小さな声だったが彼の耳には届いたようだ。彼は一度だけ優を見ると、大した興味もない素振りでまた窓の外を見た。その表情はいつものシンだった。


「…なんか用かよ」

「なにやってんの?」

「別に俺がどこで何やってようがお前に関係ねぇだろ」


どうやらあまり会話をする気がないらしい。優は視線を巡らし、ここがシンとエドガーの男性陣が取っている部屋の前である事を悟った。


「部屋、入らないの?」

「あのおっさん、煙草吸いすぎなんだよ。副流煙で死にたくねぇし、それに…」


そこまで言いかけ、シンはそれっきり口を閉ざしてしまった。


(ああ、成る程)


憶測ではあるが、優は何となく状況を理解出来た。

異端審問官であるシンと合衆国出身のエドガーのうまが合うわけがない。──の割に、優やメイファにそれ程嫌悪を表した記憶はないが。


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あきゅろす。
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